ただ、この年齢になった僕が言えるのは、「同じお金を使って同じ経験を積むのなら、1歳でも若いほうがいい」ということ。そのほうが、「豊かな経験」になりやすいのです。

 たとえばお酒。僕が20代、30代のころは、平気な顔をして一晩でワインを2、3本空けていました。さすがにいまは、そんなに飲めません。せいぜい1本飲めるかどうかです。これ、どういうことだかわかりますか?

「ワインを極めてみよう」と考えたとき、若い人のほうが2~3倍のペースでいろいろなワインを試すことができる、ということです。

 若さは、いろいろな意味で武器なのです。

 30代はもちろん、40代、50代だって僕にしてみればまだまだ「若手」。いろいろなことを経験してみてほしいと思います。

 僕は、「人・本・旅」が人生を豊かにしてくれる3本柱だと思っています。

 むしろ、この3つしかない、と言ってもいいくらいです。そのなかでも旅と人は、とくに体力や気力が大きく関係する気がしています。

 旅で言えば、歳を重ねた人とみなさんとでは、まず歩ける距離が絶対的に違います。僕も若いころは、ヨーロッパに行けば必ず大聖堂の塔に登っていたけれど、最近は「昔登ったし、今回はもういいか」となってしまう。ベルサイユ宮殿ひとつをとっても、どこまで好奇心を持って庭の奥まで歩いていけるかというと、やっぱり体力に比例する。「えっ、ここを歩くの?」というような山道も、青春18きっぷを使った鈍行列車の旅も、歳を取るとだんだん億劫になってしまいます。

 現役世代のみなさんは、持っているお金の量は人それぞれだとしても、体力と気力は高い状態にあります。そして体力と気力があるときに使う3万円と、衰えてきたときに使う3万円とでは、前者のほうがずっと濃密な体験ができるのです。