「100年に一度の大変革期」といえば自動車業界だが、「1000年に一度の大変革期」といえば、1300年以上の歴史を誇る仏壇業界だ。景気後退に住環境の変化、仏壇に求められる役割の変容など、抗い難い要因が積み重なって、2022年には自宅に仏壇がない人が6割近くに上った。「売り上げが10分の1になっても廃業はしたくない」という声もあるほど業界全体が苦しい状況にあるが、伝統にとらわれない発想で再興を目指す、老舗仏壇店の5代目がいる。仏壇の未来やいかに?(ノンフィクションライター 酒井真弓)
>>前編:【創業151年の仏壇店がDX】20年物のシステム刷新!クラウド化で得た驚きの成果とは?
止まらない「仏壇離れ」
5代目を変えた、Googleの10X(テンエックス)思考
福岡は中洲川端商店街の入り口に立つ、みどりや仏壇店。仏壇・仏具の販売で150年以上続く老舗だ。5代目の吉川和毅さんは、Google Cloudを使って顧客管理システムをクラウド化したのを機に、Googleが開催する「10X思考」のワークショップに参加した。
Googleが異次元の成長を遂げた秘密ともいわれる「10X」は、普通の会社が昨対比10%の成長を目指すところ、10倍の成果を生み出すための思考法だ。ワークショップでは、自社の問題点を洗い出して解決策を議論し、革新的なアイデアやビジネスを創出するための考え方、リーダーシップを育んでいく。
縮小の一途をたどる仏壇業界にあっても、10倍の成長は可能なのだろうか。吉川さんの肌感覚は――このままでは、5%の成長すら多分無理。
天武天皇の時代から1300年以上の歴史を誇る仏壇。庶民にも広まったのは江戸時代初期のこと。皆がいずれかの寺院の檀家(だんか)となる寺請制度を機に普及し、信仰と先祖供養が同時に行われる現在の形になった。そんな経緯もあり、仏教徒が多い国の中でも、家に仏壇があるのは日本だけだと言われている。
仏壇業界の最盛期は、1970年代後半から80年代のバブル絶頂期にかけて。1985年には、みどりや仏壇店も1日に1000万円売り上げた日があったという。しかし、バブル崩壊と住環境の変化に対応できず、市場は縮小。コロナ禍が追い打ちをかける形で休廃業が相次いでいる。
「たとえ売り上げが10分の1になったとしても、大事な日本文化であり、多くの職人が生業としている以上、廃業はしたくない。何とかして続ける方法はないか」
吉川さんいわく、これが今の仏壇業界に沈殿する空気だ。仏壇は人々の価値観に大きく左右される商品でもある。スマホに残った故人の写真をたまに眺められればそれで十分という人もいるだろう。コスパが求められる時代に、「仏壇を買えば10倍早く成仏できる」とも言えない以上、人々の購入意欲を高めるには工夫が必要だ。これまでの延長線上にない挑戦が始まった。