【対談】
コンサルティングファームがシンクタンクを持つ意義

三治 まず、普段接しているCEOをはじめとするC-Suitesと呼ばれる経営層の方々が抱える課題が近年、各段に難しいものになってきている状況があります。

 1つの領域の専門家がベストなソリューションやプラクティスを横展開していく形で行うコンサルティングサービスは、もはや成りたちづらくなっています。コンサルティングファームとしてサービスを高度化して経営層を支援するには、常に新しい何かを取り入れる、より具体的には総合的に知を集め経営を取り巻く環境を多角的に分析することが求められてきているという認識がありました。

現代の意思決定者に必要な「統合知」とは〈PR〉PwCコンサルティング合同会社 上席執行役員 パートナー
Technology Laboratory所長 
 三治 信一朗

日系シンクタンク、コンサルティングファームを経て現職。産官学のそれぞれの特徴を生かしたコンサルティングに強みを持つ。社会実装に向けた構想策定、コンソーシアム立ち上げ支援、技術戦略策定、技術ロードマップ策定支援コンサルティングに従事。政策立案支援から、研究機関の技術力評価、企業の新規事業の実行支援など幅広く視座の高いコンサルティングを提供する。

片岡 コンサルティングファームがシンクタンクを持つ意義は大きく2点あると思います。

 第1に、主なクライアントである企業のニーズとして、従来のコンサルティングファームが提供するものとは異なる視点やサービスが求められてきているということです。

 第2に、コンサルティングファームに内在するニーズです。コンサルタントは企業からのニーズを受けて動くのが基本ですが、それだけでは仕事の幅が限定されてしまいます。コンサルティングファーム自体の横並びにもつながります。

現代の意思決定者に必要な「統合知」とは〈PR〉PwCコンサルティング合同会社 チーフエコノミスト
片岡 剛士

1996年に三和総合研究所に入社し、2001年慶應義塾大学大学院商学研究科修士課程(計量経済学専攻)修了。17年7月から22年7月まで日本銀行政策委員会審議委員を務める。22年8月にPwCコンサルティング合同会社チーフエコノミストに就任し、現在に至る。兼務としては早稲田大学政治経済学術院非常勤講師(12~17年)など多数。

専門家の知見で先を見通す

片岡 日本のシンクタンクには多角的に分析することへの制約があるように思います。この背景には、日本人に特有なセクショナリズムというか、自分のシマを決めて他人には触らせないという変な縦割り主義があるのかもしれません。

 会社や組織の中でリサーチ機能をすべて完結させようという考え方もそうですし、リサーチは分野ごとで完結するものという考え方も同様です。そうではなく、「統合知」という概念を基にさまざまな領域の専門家が協力する、さらに内部だけでなく外部の専門家も含めてオンリーワンの組織をつくっていく。そこにこそ、新たなシンクタンク、インテリジェンス組織を立ち上げる大きな意味があるといまさらながら考えています。

三治 外部の知を積極的に取り入れる動きは、実はコンサルティングの世界では珍しいものです。しかし、自分たちがどう見られているかを客観的に知る、自分たちにないものを取り入れる、新しいアイデアを見つける、そのためのアプローチとして極めて有効です。

知見を掛け合わせ
実行可能で持続可能な解を得る

三治 私たちは科学的データに基づいて分析することをモットーとしています。人口動態や産業連関が端的な例ですが、そこから専門家同士が議論を始めることで物の見方が洗練されていきます。本書においてはそうした点も表現されているのではないかと思います。

 また、私たちが重視する考え方として「統合知」がありますが、片岡さんが「統合知」の重要性を感じられるのはどのようなところでしょうか。

片岡 これまでのシンクタンクは、ともすれば経済なら経済の分野だけで仕事を回していけばいいという側面があったのだと思います。専門性を深めるためには特定の分野の中に留まる形で知見を深めていくのがよいとされていました。しかし、これから、ないし、いま求められているのは他分野との掛け合わせであり、これがキーワードではないでしょうか。

三治 掛け合わせは、とても大切ですね。

片岡 本書で取り上げた国際関係、少子高齢化、テクノロジー、サイバーセキュリティ、自然資本、ウェルビーイングはまさにそうで、どのような話題であっても多角的視点が求められます。改めて1つの特定の分野で何かができるという時代はすでに終わったと感じますし、そのあたりを読者の方々とも共有できれば嬉しく思います。

三治 本書では必ずしも明確な答えを提示しているわけではありません。ただ、議論のための幅広い土壌は提供できたと思っています。私たちは、この土壌は常にアップデートしていきますが、読者の方々とは具体的な行動に向けた議論をいますぐにでも始めていきたいと思っています。

(次回:5月7日配信予定)