来年2014年は、曲亭馬琴の小説『南総里見八犬伝』が出版されて200年にあたる。メモリアルイヤーを前にして、同小説の主な舞台である千葉県館山市では、八犬伝にまつわる様々な企画を推進、地域振興を盛り上げている。
館山市に本店を構える館山信用金庫は、昨年11月から「南総里見八犬伝定期預金」を募集。締め切りを待たずして募集金額の30億円に達した。同預金の0.01%は、地域活性化や観光支援を目的とした「ふるさと応援ファンド」の基金に充てられる。地域に暮らす住民たちが、自分たちの手で郷土を活気づける好例と言えよう。
そして今、館山市が最も力を入れているのは“大河ドラマ誘致”である。2010年に有志を中心として「里見氏大河ドラマ化実行委員会」を立ち上げ、地域のPRや署名活動に力を入れつつ、里見氏の正史を題材としたNHK大河ドラマ化の実現を目指している。
小説や物語の主人公にゆかりのある地域が、大河ドラマ化を熱望するという流れは全国に存在する。
日本人で初めてアメリカの地を踏んだジョン万次郎を推す高知県土佐清水市。県内経済界の賛助を背景に、冲方丁氏原作の『光圀伝』のドラマ化を図る茨城県水戸市。50歳を過ぎてから日本全国を測量して歩き、「大日本沿海興地全図」を作成した伊能忠敬の出生地、千葉県香取市などなど。
ちなみに2014年の大河ドラマに決定している『軍師勘兵衛』は、大分県中津市ゆかりの武将、黒田官兵衛を描いた作品である。中津市は「豊前国中津黒田武士顕彰会」を2005年に発足させ、官兵衛に関する講演会やゆるキャラを製作するなど、大河ドラマ化を目指して展開してきた誘致活動が花開いた。
少々古いデータになるが、2000年12月に日本政策投資銀行北陸支店がまとめた資料「大河ドラマを活かした観光活性化策」によると、大河ドラマの放映はその地域にプラスとマイナス、双方の効果をもたらすようだ。
メリットとなるのは、まず大規模な集客効果。そして放映開始前から始まる大量の情報発信によって、地域の経済波及効果に期待がかかる。1997年に放映された大河ドラマ『毛利元就』による集客効果は、舞台となった広島、山口、島根県でおよそ343万人、経済波及効果は936億円と推計されている。
一方マイナス効果は、観光需要が一過性のものとなり、ドラマ終了後の集客が大幅に落ち込む点にある。また、観光客を迎え入れる体制が、ハード・ソフト面ともに整備されておらず、観光客にその地域のマイナスイメージが逆に浸透してしまう危険性も挙げられている。
実際、大河ドラマを契機として、継続的な集客やまちおこしに成功した市町村の事例は少ない。継続的かつ安定的に観光需要を創出するには、“歴男”“歴女”などのブームに踊らされず、大河ドラマ誘致のメリット・デメリットを各自治体がしっかりと認識する必要がありそうだ。
(筒井健二/5時から作家塾(R))