自分の思いを言語化する、具体的な方法とは?

榎本博明『「指示通り」ができない人たち』(日経プレミアシリーズ)榎本博明『「指示通り」ができない人たち』(日経プレミアシリーズ)

 そこで、自分の思いを言語化する訓練として、具体的な方法をアドバイスすることにした。

 ただし、個別に言語化の訓練をすると、本人は自分が問題人物視されていると感じて被害感情を抱く可能性もあるし、当人に限らず言語化能力を磨くことはコミュニケーションの円滑化に役立つので、研修の一環としてその部署のメンバー全員に行うのがよいのではないかといったアドバイスも付け加えた。

 まず簡単にできるのは、思うことを文章にする練習である。ここで問題となったような人物の場合、作文が苦手なのではないかと思われる。作文が得意な人物にしてみれば、ただ自分が思っていることをそのまま書けばいいのだから簡単なはずである。だが、言語化するのが苦手な人物にとっては、自分が思っていることを言語化するのは難しい。

 頭の中が言語的に整理されていないのだ。思いが言葉で整理されずに、モヤモヤした状態で漂っている。そこで、思っていることを言語化する訓練によって、頭の中を整理していくのである。

 自分が思っていることが頭の中で言語化されれば、本人も自分の思っていることを明確につかめるし、人にそれを伝えることができるようになる。自分の思っていることを人に伝えられれば、気持ちがスッキリする。それによって、コミュニケーションも円滑になり、ストレスも軽減され、モチベーションが高まるといった効果も見込める。

 頭の中のモヤモヤを、対話を通してはっきりつかめるようにしていくというのは、いわゆるカウンセリングの基本原理でもある。それを応用して、ときどき思っていることを引き出すような対話の場を設けるのも有効だろう。

 自分の思いを人に伝えるためには、思いを言葉にしなければならない。言語化が苦手な人物は、ふだんから思いを口にし合うような人間関係をもっていないことが多い。そのような場を与えることで、自分の思っていることを言語化する習慣が身につき、コミュニケーションも円滑になっていくことが期待できる。