楽天(現楽天グループ)は2014年10月に共通ポイント事業に参入した。だが、先行するTポイントの牙城は堅く、新たな加盟店の開拓は苦戦が続いていた。楽天にとって“突破口”となったのが、家電量販大手の上新電機の加盟である。長期連載『共通ポイント20年戦争』の#23では、上新電機との加盟交渉の内幕に加え、反転攻勢の起爆剤となった前例のない施策について明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)
苦戦の楽天ポイントは上新電機と交渉へ
Tポイント導入は自社カード廃止が壁に
2014年10月、楽天(現楽天グループ)は共通ポイント事業に参入した。ECサイト「楽天市場」だけに限ってきたポイントをリアルの加盟店でも使えるようにしたのだ。その1カ月後に、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)でTポイントを生み出した笠原和彦が楽天に入社し、陣頭指揮を執ることになる。だが、肝心要ともいえる新規加盟店の獲得は苦戦が続いていた。
同年11月に楽天に移ったばかりの笠原が訪ねたのが、大阪を本拠とする家電量販店大手の上新電機副社長(現社長)の金谷隆平の元である。実は、笠原はその約10年前のCCC時代にもTポイントの加盟店参画で金谷を口説いたことがあった。
当時、大阪・日本橋にあった上新電機の旧本社を訪れた笠原は常務営業本部長だった金谷にTポイントの利点を説いた。笠原の説明を聞いた金谷は、Tポイントの「1業種1社」ルールが魅力的に映った。加入すれば、家電量販店では上新電機のみとなる。
だが、笠原との二度目の面会で、金谷は参画を断る。Tポイント側が出した条件をのめなかったからだ。その条件とは、上新電機が自社で展開するポイントカードを廃止して、Tポイントに一本化する、というものだった。
上新電機が1989年にスタートした自社カードは、顧客の購買履歴の全てをデータとして蓄積してきた。理由は、家電製品のリコール(回収・無償修理)に対応するためだ。メーカーからリコールの連絡が来た際に、購買履歴を基に製品を購入した顧客に速やかに知らせることができる。
購買履歴をここまで徹底的に管理している家電量販店はまれだ。20年時点で、購買履歴の件数は12億8900万に上る。25年前の新婚時代に購入した家電のリコール通知が現在の住所にちゃんと届くことに驚く顧客もいるほどだ。
Tポイント側が出した条件は、その上新電機の“ウリ”を捨ててくれというものに等しかった。Tポイントに一本化すれば、顧客の購買履歴はTポイント側が持つことになり、上新電機は把握できなくなる。金谷にとって検討の余地はなかった。笠原はその後も上新電機を繰り返し訪問し、Tポイント加入を頼んだが、金谷が首を縦に振ることはなかった。
そして、14年11月、今度は楽天ポイントの責任者という立場で笠原は金谷と再び相まみえることになったのだ。