ローソンに楽天ポイント導入へ「幻の包括提携構想」の中身!合意前にシステム開発にまで着手Photo:Bloomberg/gettyimages

楽天(現楽天グループ)は2015年、Tポイントと熾烈(しれつ)なファミリーマート争奪戦を繰り広げていた。実は、楽天は同時並行でローソンとの提携も模索していた。ライバルであるPontaの主力加盟店であるローソンも楽天との連携には前向きで、ポイントやECなど幅広い分野で包括提携を結ぶ方向で議論は煮詰まっていた。だが、大型ディールは合意寸前で破談に至る。三菱商事やNTTドコモ、リクルートホールディングス、日本航空などが絡む、楽天とローソンの幻の包括提携の舞台裏を2回に分けてひもといていく。長期連載『共通ポイント20年戦争』の#36では、ローソンと楽天が水面下で進めていた提携交渉の中身を明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)

楽天とローソンが包括提携交渉入り
目玉はローソンの楽天ポイント導入

「役員合宿でオーソライズします」。2015年6月19日、楽天ポイントの総責任者である笠原和彦にローソン専務執行役員の加茂正治はそう約束した。楽天(現楽天グループ)とローソンの提携に向けた話し合いはスムーズな出だしとなった。最初の顔合わせには、当時営業戦略本部長補佐だった酒井勝昭も同席していた。

 日本初の共通ポイント、Tポイントの生みの親である笠原は、Tポイントを電撃離脱してPontaを立ち上げたローソンには“遺恨”がある。ローソンの脱退で絶体絶命のTポイントは、ファミリーマートに救ってもらい、危機を脱した経緯があった。笠原にとって楽天への移籍後も、Pontaの主力であるローソンはライバル陣営であることには変わりない。ではなぜ、笠原は加茂と面会したのか。

 大きなきっかけは、14年秋に共通ポイントに参入した楽天を襲ったある危機があった。両者の初交渉の3カ月前の15年3月、コンビニエンスストア業界は大型再編に揺れた。業界3位のファミマと、業界4位のサークルKサンクスを傘下に持つユニーグループ・ホールディングスが経営統合に向けて交渉に入ると発表したのだ。

 ファミマはTポイント、サークルKサンクスは楽天ポイントの中核の加盟店である。ただ、コンビニの屋号はファミマに統一される見通しで、サークルKサンクスの看板の消滅とともに、ポイントもTポイントに一本化される可能性があった。コンビニを加盟店網から失うようなことがあれば、大打撃である。ローソンとの交渉入りは必然だったのだ。楽天会長兼社長の三木谷浩史とローソン社長の玉塚元一の親密な関係も提携の動きを強力にプッシュした。

 もちろん、ローソンも楽天と組むメリットは大きかった。当時、ローソンでのPontaの利用率は6割強に達していたが、そこからは伸び悩みが続いていた。つまり、来店者の3人に1人が、誰でどんな商品を購入したかが分からないのだ。楽天と組めばその捕捉率を高められる。ほかにも、楽天市場や楽天の子会社だった医薬品通販サイト「ケンコーコム」なども魅力だった。

 笠原のカウンターパートだった加茂は1992年に東京大学を卒業し、戦略コンサルティングファームのマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。有線ブロードネットワークス(現U-NEXT HOLDINGS)役員などを務めた後、10年に当時社長だった新浪剛史の誘いでローソンに移籍した。

 ローソンを16年に退社すると、マッキンゼーに戻りパートナーを務めたほか、経営再建中の東芝に一時身を置いたこともある。笠原と加茂も10年ほどの付き合いだった。04年ごろ、笠原がTポイントの加盟店開拓で訪れた有線で出会ったのだ。

 両社の思惑もあり、交渉は初日から建設的なものだった。今後、幅広い分野での提携について議論することや、NDA(秘密保持契約)を締結することで合意した。EC業界と小売業界の雄が手を組むのは初のことだ。

 そして、提携の目玉となったのが、ローソンでの楽天ポイントの導入だった。当時、複数の共通ポイントを導入する大手企業は存在しなかった。初ものずくめの、過去に類を見ない大型ディールが動き出した。