スイーツから「男性向け」表記は消え
ジェンダーフリーの時代が到来

 1991年(平成3)から1993年にかけてバブルが崩壊し、景気が後退するなか、1990年代後半から企業の人員整理が進み、就職氷河期を迎え、男女ともに非正規雇用者が増加した。かつてのようなサラリーマンの夫と専業主婦の妻という戦後高度成長期の家族モデルが崩壊していった時代だったといえる。そうしたなか、従来の“男らしさ”にとらわれない男性が増えていったのだ。

書影『味なニッポン戦後史』(集英社インターナショナル)『味なニッポン戦後史』(集英社インターナショナル)
澁川祐子 著

 ひるがえって、戦後高度成長期はサラリーマン社会と言われるように、郊外の住宅から満員電車に乗って出勤し、夜遅くまで残業し、休日は接待ゴルフにいそしむ。社員旅行や運動会もあり、会社とともに過ごす時間が圧倒的に多かった。そして、仕事の人間とのコミュニケーションに、お酒はついてまわった。

 サラリーマン小説として名高い山口瞳の『江分利満氏の優雅生活』(文藝春秋新社、1963年)を読むと、甘いものは、妻と銀座にアイスクリームを食べに行ったとひと言あるぐらいで、大半はお酒の話で占められている。

 また同氏の『礼儀作法入門』(祥伝社、1975年)は粋なサラリーマンのお手本として広く読まれた本だが、お酒の飲み方や酒場でのふるまいがこと細かに説かれる。年始の挨拶の手土産も甘い洋菓子などもってのほかで、酒が一番。酒を飲まずばサラリーマンにあらず、というほどの勢いだ。むろん当時から下戸の甘党はもちろん、上戸(上下の表現に、すでに価値観が入り込んでいる)でも甘いもの好きはいただろうが、おおっぴらに食べる場や時間がなかったのではないか。

 事実、国民健康・栄養調査によれば、20代男性の一日当たりの菓子類平均摂取量は、1999年(平成11)に14.3グラムだったのが、最新の2019年(令和元)には21.5グラムと大幅に増えた。ちなみに20代女性は1999年が26.0グラム、2019年が22.2グラムと減っており、男女差がほとんどなくなっている。

図表:20代男女の1日当たり菓子類平均摂取量(g)出典:厚生労働省「国民健康・栄養調査2019」 拡大画像表示

 和菓子類は女性のほうが、ケーキ・ペストリー類はむしろ男性のほうが多く食べている結果になっている。つまり、男性も女性に劣らず甘いものを食べているということだ。

「男は辛党、女は甘党」はかつての話。実態は性差で説明できなくなってきている。そういえばここ最近、コンビニで「男性向け」を謳うスイーツを見かけない。もはや声高にアピールせずともよくなったのだろう。甘味もジェンダーフリーの時代がやってきた。