最初の症状が表れてから次の段階に進むまでの時間には個人差がありますし、ほとんど進行しないまま終わる人もいます。

 まず覚えておいていただきたいのが、認知症は、とてもゆっくりと進行していく病気だということ。家族の顔がわからなくなるとか、トイレにも自分で行けなくなるといった状態になるのは、認知症がかなり進行してからです。初期の頃なら、記憶力が低下する程度で、たいていの人はそれまで通りの生活を続けることができるのです。

認知症の身内を安心させるために
どう向き合えばいいのか

 70代、80代で、まだ認知症になっていない方は、物忘れなど軽度のうちに、もし認知症の症状が進行したらどうしてほしいか、家族と話し合っておくことをおすすめします。

 認知症が進んでくると、記憶が曖昧になり、朝ごはんを食べたのに、食べていないと何度も言うことがあります。自分の主張が受け入れられないと癇癪を起こすなど、以前とはかけ離れた言動が増えていきます。それは家族にとってかなり衝撃的な出来事です。家族にしてみれば、以前のような会話はもうできないと思い込み、高齢の親に対してつい高圧的な態度をとったり、きつい口調で否定したりするかもしれません。

 しかし、このように接してしまうことは認知症当事者を混乱させ、不安にさせる原因になります。家族の方に知っておいてほしいのは、認知症とは正常だった機能が徐々に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすものだということです。その事実に対し落ち込み、絶望を感じているのは認知症の当事者です。家族に求められるのは、認知症の人を別人扱いせず、その状態のまま受け入れることです。

 たとえば、知能低下が進めば、家族に対して面と向かって「あなたは誰ですか?」と聞くこともあるでしょう。突然そんなことを言われたら、「何言ってるの?」「しっかりして!」と叫んで、きつい言い方で責めてしまうかもしれません。その気持ちは十分わかります。