でも、そんなときでも、「私は○○ですよ」と優しく声をかければ、相手は安心できますし、混乱せずに済みます。耐える努力がいるかもしれませんが、これが認知症の人をそのまま受け入れるということです。

認知症になった人が
「何もわからない」は誤解

 認知症に対する誤ったイメージのひとつに、「ボケたら何もわからなくなる」というものがあります。つまり、話の内容は理解できないから、何を言っても無駄だと捉えてしまうのです。

 しかし、決してそんなことはありません。周囲の人たちは、「もう何を言ってもわからない」と思い込み、ついつい気遣いを忘れてしまいます。介護疲れから、つい本人の目の前で舌打ちしたり、愚痴を口にしたりすることもあるでしょうが、それは本人にも伝わっています。何も言い返さないのは、話す内容を考えるのに時間がかかったりしているからです。

 会話に限らず、まだまだできることはあるのに、危ないからという理由で行動を制限し、あれもこれもダメと取り上げてしまえば、本人は落ち込んでしまいます。悲しみや不安が症状の悪化につながることも、十分あり得ます。

 また認知症が進んでくると、同時にいくつものことを理解するのが難しくなります。一度にいろいろなことを言われると戸惑ってしまい、話についていけなくなりますので、わかりやすい言葉で、ゆっくり話しかけることが基本です。返事をするのに時間がかかりますので、急かさず、本人が話し始めるまで待つことも必要です。

 認知症の人にはしっかりと向き合う姿勢がとても大事で、それが本人に安心感を与え、少しでも進行を遅らせることにつながるのです。ご家族にはぜひ覚えておいていただきたいと思います。

 もうひとつ申し上げたいのは、認知症の人には徘徊や大声を出すなど問題行動が起こると思われがちですが、おそらくそれは全体の10分の1くらいの割合ですし、また機嫌のいいときには問題行動をまず起こしません。その意味でも、機嫌よくいてもらうことが大切なのです。