藤浪と感覚をすり合わせるため
僕も藤浪にならないといけない

 2011年の冬、2年生だった藤浪(晋太郎)とは1カ月ほどかけて「すり合わせ」をしました。

 秋の近畿大会で天理(奈良)に負けた後、藤浪と話をして、「スローシャドー」という練習に取り組ませました。実際にはボールを投げず、ゆっくり、ゆっくり、投球動作の一つひとつを体に染みこませるように繰り返す練習です。藤浪はどうしても、体の軸から右腕が遠くに離れてしまうフォームでした。感覚的には、胴体に「巻き付くように」腕を振れるように、という狙いで思いついた練習方法です。

「ちょっとやりたい練習があるから、ゆっくり話をしよう」と藤浪に伝えると、最初は「ん?」って感じの反応でした。たぶん、めちゃくちゃ走るとか投げ込みをするとか、「猛練習」を想像していたんでしょう。

 藤浪に何かを感じ取ってもらいたい、気づいてもらいたいという思いでした。フォームを撮影しながら、「こっちの方が良くないか?」「いえ、今のは良くなかったです」といったやりとりを繰り返します。藤浪が良いと思っても、僕が良くないと思うときもあれば、その逆もありました。

 外から見ていいと思っても、それを選手本人が良いと思うかは分からない。「あかんと思ったらちゃんと言え」と伝えていました。2人の感覚を合わせていく作業を、1カ月ほど繰り返しました。

 根気のいる練習です。藤浪はじっくり取り組める選手でしたが、途中から根気がなくなって、一度叱ったりもしました。「いや、もっとじっくりやりたいねん」と。あいつは多分2、3日で終わると思っていたんでしょうね。

 感覚をすり合わせるためには、僕も藤浪にならないといけません。藤浪は身長197センチ。隣に呼んで、ブロックを二つ積み上げて、僕がそこに上ると、ちょうど藤浪と同じ目線になりました。半分、笑かすのもありましたけど、気づきもありました。「こんな景色なんや」と。