甲子園、春夏通算8度の優勝を誇る大阪桐蔭高校・西谷浩一監督。組織を作る上で、リーダー=主将の存在は「最重要」との信念で、強豪校を築き上げた。藤浪晋太郎(阪神─アスレチックス)と過ごした時代の秘話と、指導法の変化を名将が明かす。※本稿は、朝日新聞スポーツ部『高校野球 名将の流儀:世界一の日本野球はこうして作られた』(朝日新書)のうち、西谷浩一監督の章の一部を抜粋・編集したものです。

主将になりそうな選手には
早くから「リーダー教育」をする

阪神時代の藤浪晋太郎投手Photo:SANKEI

 軸がしっかりすれば、そこに周りが巻きついてくるものです。誰を中心にチーム作りをしていくか。

 特にうちの場合は寮でみんなで生活しているので、野球だけうまかったらいいってわけでもない。練習態度や私生活、周囲への気配りを含めてみんなに認められ、最も信頼される人でなければならない。

 ただ、天性のリーダーシップを持った子はなかなかいません。そういう「天然もの」の主将で名前が挙がるのは2014年の中村誠(大阪桐蔭コーチ)、17年の福井章吾(トヨタ自動車)、18年の中川卓也(東京ガス)といった選手たちです。入ってきたときから、「あ、これはキャプテンになるだろうな」と思いました。

 主将になりそうだなと思えば、早いうちから「リーダー教育」をします。たとえば福井の場合、元々コミュニケーション能力が非常に高かった。加えて、ゲームの中での強さを身につけさせようと思いました。本職は捕手だったのですが、三塁手や外野手でも、上級生のチームに入れて無理やり使いました。

 もちろん、1人のリーダーだけでは組織は強くなりません。この軸に巻きつく形で、もっと太い芯を作らないといけない。

 17年は福井以外、リーダーシップに関してはみんな少しずつ足りなかった。遊撃手の泉口友汰(NTT西日本→巨人)は一生懸命練習するけど、自分のことしかやらないとか、山本ダンテ武蔵(パナソニック)は声がよく出て明るいけど、なんか抜けてるとか。

 でも、なにか一つでもいいから福井を助け、一緒にできるものはある。そんな狙いで副主将を7人にしました。7人という大人数だと、人任せになりがちで、良いことばかりではない。ただ、この年に関しては、これがいいと思いました。

 そしてこの7人を含めたリーダー教育です。福井と僕も合わせて9人で回すノートを作りました。