アメリカ人の恋人が教えてくれた
エンジョイの大切さ

“エンジョイ”することの重要性を意識したのは、今から30年近く前、アメリカ人女性と交際していた時だった。

 僕は1995年から3年間、ニューヨークにあった朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)という国際機関に、通産省から出向していた。その同僚でもあった彼女に、「出向後は日本に戻り、通産省に復職するつもりだ」と話したところ、こんなことを言われたのだ。

「日本の政府で働くのは立派な仕事だと思うけれど、もう10年以上も働いたのよね。それなら、そろそろ別の仕事にトライしてみてもいいのでは? その方が新しい経験ができて、エキサイティングだし、人生をエンジョイできると思うけれど」

 この言葉に、ハッとさせられた。「アメリカ人が積極的に転職するのは、収入やポジションの上昇だけでなく、新しい経験を求め、人生をエンジョイするという目的もあるのか」と。

 それまで日本的・昭和的な価値観しか知らなかった僕は、新卒で就職したところに定年まで勤め上げるのが当たり前だと思っていた。だけど、彼女の言葉を機に、日本的な終身雇用や安定にこだわることに疑問を抱くようになった。

 人生は1度きり。ならば、仕事もプライベートも、新しい世界に積極的に身を投じ、いろいろな経験をした方が、豊かで楽しいのではないか。

 かつてロッククライミングにのめり込んでいた頃、山ではリスクを積極的にとり、突発的なトラブルさえも楽しんでいたが、それを人生でもやり続けるべきだ。そう考えるようになった。

 思い返すと、彼女は、典型的な日本人の僕に、アメリカのいろんなことを教えてくれた。

 週末は、ニューヨーク郊外にある彼女の実家で家族や友人などとまさにアメリカ人の生活をしていたが、そこには、僕にとって未知の世界が広がっていた。アメリカならではの生活習慣やイベント、そして、彼らの価値観や振る舞い。自分が、まったく知らなかった人生を経験させてもらった。

 僕が驚いたり、感動したりするたびに、彼女から「エンジョイしている?」と聞かれたものだ。彼女のおかげで、KEDO出向から戻った後の僕の人生に対するスタンスは、かなり変わった。僕は、新しい経験や変化に、積極的に飛び込むようになったのだ。