今年の近畿地方の梅雨入り予想は、平年より遅い6月16日頃。今回は、梅雨の日も楽しくなる京都の紫陽花名所へご案内します。青空の下で鮮やかに輝くブルーのグラデーションも魅力的ですが、そぼふる雨にしっとりと濡れ、幽玄の美をまとう紫陽花もいとをかし。葉が弾く雨音にも癒やされます。これから7月の上旬までが見頃ですよ。(らくたび、ダイヤモンド・ライフ編集部)
「御池ブルー」と川沿いの紫陽花を愛でる
地下鉄「烏丸御池」駅は烏丸線と東西線の乗換駅です。梅雨の季節、この駅で降りて、まずは京都市役所前の広い御池通を散策してみましょう。通りを彩る紫陽花が近年人気の「御池ブルー」。ケヤキの街路樹の下、歩道沿いの紫陽花が梅雨入り前から見頃を迎えています。富小路通から柳馬場通の間の御池通北側、京都でおなじみのベーカリー「進々堂御池店」の前辺りが一番の見どころ。ブルー系の紫陽花が咲き誇り、行き交う人々の表情を和ませています。
梅雨の時期を象徴する紫陽花は、関東の沿岸部や島々に生えていたガクアジサイが原生種です。西洋に渡り、品種改良されて里帰りした西洋アジサイが、今ではすっかりメジャーな存在となり、多種多様な品種が見られます。酸性の土で育つとブルー系、アルカリ性の土で育つとピンク系の花色となり、土壌の成分によって色が変わることから「七変化」の別名も。室町時代前期の歌学書『言塵集』(今川貞世筆)では、「またぶりぐさ」と呼び、大きな葉をトイレットペーパーの代わりに使用していたとか。藤の花のように高貴な存在ではなく、とても身近な植物であったことがうかがえますね。
ひと月余り花をめでることができる紫陽花、さっそく京都の名所を見に出かけましょう。
御池通の東に交わる高瀬川は、江戸時代初期に豪商の角倉了以が開削した人工運河です。京の都と大坂をつないだ水運の要衝で、幕末には、坂本龍馬ら熱き志を抱く志士たちが舟で往来。森鴎外の小説『高瀬舟』の舞台でもあります。繁華街の木屋町通に沿うせせらぎは、四季折々の色彩に染まる、街なかのオアシス的存在。川沿いを歩いていると、ところどころで目にすることができますよ。
高瀬川から鴨川に架かる四条大橋を渡り、桜の名所でもある祇園白川へ。柳が縁取る白川南通は、雨の日もおすすめ。揺れる柳の枝としっとりと濡れた石畳、傍らに楚々と咲く紫陽花は京情緒たっぷりです。
通り沿いには、「かにかくに 祇園はこひし 寝るときも 枕のしたを水のながるる」とつづられた歌碑が立ちます。誰もが耳覚えのありそうな「命短し、恋せよ乙女」というフレーズから始まる「ゴンドラの唄」の作詞家である、歌人の吉井勇をしのぶ歌碑です。
なぜここに? それは、酒と女、そして祇園をこよなく愛した吉井勇が通ったお茶屋・大友(だいとも)があった場所だから。女将の磯田多佳が好んでいたという紫陽花が、歌碑の近くで花を咲かせています。
街なかにさりげなく咲いている紫陽花を眺めるのも風流なものですが、京都ならではのダイナミックな紫陽花にどっぷりと浸りたいときは、郊外にも足を延ばしましょう。
西国三十三所観音霊場第20番札所の善峯寺(西京区)は、JR京都線「向日町」駅か、京都向日市激辛商店街で有名な阪急京都線「東向日」駅から、阪急バス66番に乗って30分ほど揺られた終点にあります。
平安時代中期に天台宗の源算上人によって創建。八百屋の娘から大奥に入り、江戸幕府第3代将軍徳川家光に見初められ、5代将軍綱吉の生母となった江戸時代版シンデレラ・桂昌院により再興されました。澄み渡る空気に包まれ、山肌に点在する諸堂をハイキング感覚で巡拝すると、爽快な気分が味わえます。
西洋アジサイ、ガクアジサイ、ヤマアジサイなど約8000株の紫陽花が、およそ3000坪もの白山あじさい苑を彩ります。見晴らしの良い高台から眼下に広がる紫陽花、その先に京都市街や東山の稜線が望める、壮大なスケールが魅力です。