「あじさい寺」こと三室戸寺(宇治市)の紫陽花「あじさい寺」こと三室戸寺(宇治市)の紫陽花

宇治川沿いからあじさい寺と宇治茶バス

 藤森神社から電車で2駅(京阪本線「伏見桃山」駅か近鉄奈良線「桃山御陵前」駅)、徒歩圏内にある伏見は、豊臣秀吉が築いた伏見城の城下町として栄えました。豊富な地下水に恵まれるゆえ、今では全国有数の酒どころ。伏見城の建築時、宇治川の水を引き入れて外堀(濠川)と結んだ宇治川派流は伏見と大坂を結んだ交通の要衝で、酒蔵や船宿、問屋が連なり、にぎわいを見せました。

 かつて物資や旅人を運んだ「十石舟」が遊覧船として再現され、昭和初期の土木遺産「三栖閘門(みすこうもん)」までの船旅を楽しむことができます。この川沿いにも紫陽花が。月桂冠大倉記念館の趣深い酒蔵と十石舟、紫陽花による、江戸時代にタイムスリップしたような情緒豊かな風景が見られます。

 京阪本線「中書島」駅から京阪宇治線「三室戸」駅で降り、東へ15分で三室戸寺(宇治市)に。第6回でゴールデンウイークのツツジの名所としてご紹介した花の寺です。山の斜面に広がる約5000坪もの庭園には、四季折々の花が咲き継ぎます。ガクアジサイ、西洋アジサイのほか、幻の紫陽花と称される「七段花」など、さまざまな紫陽花が咲き満ちます。以前は1万株でしたが、年々増えてパワーアップし、現在は約50種2万株と倍増。凛(りん)と伸びた杉木立のシルエットと鮮やかな紫陽花の対比が幻想的です。

幻のアジサイ「七段花」(左)と日本古来のガクアジサイ幻の紫陽花「七段花」(左)と日本古来のガクアジサイ

 NHK大河ドラマ『光る君へ』が話題の今年は、4色の紫陽花800鉢で「紫式部と道長の恋」を表現した紫陽花アートもお目見えしています。また、6月23日までの土日曜の夜には、紫陽花のライトアップも実施。昼とは異なる妖艶な表情を堪能しましょう。

 最後は、個性派の紫陽花スポットを。宇治の中心部から南東方面へ車で40分ほどの山の中。信楽町(滋賀県)に隣接する宇治田原町へ。800年の歴史を紡ぐ高野山真言宗の正寿院(しょうじゅいん)は、本尊の秘仏「十一面観音菩薩」や仏師快慶作「不動明王像」を祀(まつ)る、由緒ある古刹です。

 かつては山あいの隠れ寺でしたが、2015年に客殿のハート形「猪目(いのめ)窓」や天井画「花天井」が誕生して以来、遠方からも多くの参拝者が訪れる人気スポットとなりました。土日祝日(12月8日まで)のみ、JR奈良線・京阪宇治線「宇治」駅から「奥山田正寿院口」停留所まで「宇治茶バス」が運行されています。車窓や降車ボタンもハート形(!)の特別車両です。朝一番、9時半頃発の便
に乗って、宇治茶の雰囲気を満喫しましょう。

 フォトジェニックなハート形ですが、実は「猪目」という日本古来の伝統文様。災いを除き、福を招いてくれる縁起のいい文様なのです。四季折々の草花や伝統文様などを描いた160枚の板絵からなる花天井は、日本を代表する絵師や書家など約100人による傑作ぞろい。紫陽花のほか、風神・雷神や舞妓さんの姿も描かれているので、探してみてください。

 正寿院には「風鈴寺」の別名も。6月1日から9月30日までの間、茶畑と山々を借景とした境内を2000個の風鈴が彩る「風鈴まつり」が開催されています。風鈴の音には厄よけの意味もあるそう。ブルーの紫陽花をあしらった風鈴の小径を歩けば、心身共に清められることでしょう。

正寿院では期間中、約500個のあじさい風鈴が涼やかな音色を響かせる正寿院では期間中、約500個のあじさい風鈴が涼やかな音色を響かせる