三千院三千院(左京区)の紫陽花。白、青、紫など涼しげなカラートーンが夏にぴったり

西山から三千院、藤森神社へ

 先にご紹介した善峯寺と共に、西山三山の一つに名を連ねる通称「柳谷(やなぎだに)観音」の楊谷寺(長岡京市)は、新西国三十三所観音霊場第17番札所。手水鉢を花で飾る「花手水」の発祥とされ、SNSで話題になることもしばしば。紅葉の季節にも人気です。

 平安京が開かれてすぐの806(大同元)年、清水寺を開いた延鎮僧都が、夢告により柳が茂る渓谷の岩の上で眼病に霊験あらたかな十一面千手千眼観世音菩薩と出会い、お堂を建てて祀(まつ)ったのが始まりと伝わります。

 この地を訪れた空海は、境内に湧く水で親猿が眼病を患った子猿の目を洗い、見事快復した光景を見て、この水を祈祷。以来、眼病平癒の霊水「独鈷水(おこうずい)」として大切にされています。アクセスは車が便利ですが、阪急京都線「長岡天神」もしくは「西山天王山」駅、JR京都線「長岡京」駅からバスに乗り、「奥海印寺」停留所から徒歩40分。毎月17日の縁日にはシャトルバスも運行しています。

 境内の紫陽花は約5000株で、6月30日までは「あじさいウィーク」が開催中。書院から奥の院まで続く「あじさい回廊」や、本堂から奥の院まで続く「あじさいのみち」などに紫陽花が咲き誇ります。紫陽花がモチーフの透明な傘が連なるフォトジェニックな演出や、期間限定御朱印にも注目。紫陽花づくしに浸りましょう。

 西山が善峯寺と柳谷観音なら、北の名所は比叡山の麓に広がる大原の三千院(左京区)でしょう。阿弥陀三尊像(国宝)を祀る往生極楽院を囲む庭園「有清園」は、秋の紅葉も見事ですが、ベストシーズンは、みずみずしく輝く苔と杉木立、青もみじの共演が見られる今の時期でしょう。往生極楽院からさらに斜面を上がっていくと、50種1000株ほどの紫陽花が植えられたあじさい苑があります。山間部に位置するため、市内に比べて見頃を迎えるのが少し遅くなり、7月上旬まで楽しめます。毎年ハート型の紫陽花も見られるそうなので、ぜひ探してみてください。

 参拝後のカフェタイムは、三千院の参道から少しそれた丘の上、大原特産のしば漬けの貯蔵庫を再生したカフェ「一陽舎」がおすすめ。ウッドデッキのテラス席や木の温もりあふれる店内から、シソ畑やユズ畑、棚田の景色が見渡せます。

 西と北の次は南。藤森神社(伏見区)へと参りましょう。今から1800年も前、第14代仲哀天皇の御代のこと。后の神功皇后が朝鮮半島での戦に勝利し帰国した際、この地に軍の大旗を立て、武具を納める塚を設け、祭祀を営んだのが起源だと伝わります。

 菖蒲の節句の発祥地であり、「菖蒲」が「勝負」に転じることから勝運を招く神として、また、5月5日の駈馬神事にちなみ馬の守護神としても信仰されています。6月1日から約1カ月間開かれる紫陽花苑は、境内に2カ所、合わせて3500株が咲き満ちます。こちらはアクセスが容易で、京阪本線「墨染」駅やJR奈良線「藤森」駅から徒歩数分で着きます。

藤森神社の紫陽花苑。期間中の週末には時折、奉納行事などイベントなども開催藤森神社の紫陽花苑。期間中の週末には時折、奉納行事などイベントなども開催