キャッシュレスにしても乗客は増えない...
「Suica撤退ドミノ」を避けるには?
熊本県に限らず、地方の鉄道・バス会社は軒並み、交通系ICへの対応に苦慮している。地方の鉄道・バスの経営は厳しく、先述した通り、導入への補助金はあっても会社負担は残る。何より、キャッシュレスに対応したからといって乗客が爆発的に増えるわけでもない。
交通系ICに対応した地域発のカードとしては、りゅーと(新潟県)、CI-CA(奈良県)、SAPICA(北海道)、icsca(宮城県)などがある。各地での交通系IC利用の比率を見ると、「約20%」(兵庫県・NicoPa)「非公表だが、数値は極めて低い」(静岡県・LuLuca)などさまざまだ(いずれも熊本県のヒアリング資料より)。利便性のために対応したからといって、多くの利用者に使われる訳ではないようだ。
また、各地とも熊本と同じ機器の老朽化・更新コスト問題に直面している。「PASPY」(広島県)のように、190万枚も発行されたにもかかわらず、機材の老朽化を理由にサービスを終了する例もある。
各地のカードは交通系ICへの対応から10年程度経過していて、熊本や広島に続く“交通系IC離脱”が、ドミノのように起こりかねない状況だ。大西一史・熊本市長は、「(熊本と)同様の事情で交通系ICの維持を断念する自治体が出てくるのではないか。国としても考える時期が来ている」と、今後を憂慮するコメントを残している。
国策で始めた交通のキャッシュレス化を10年程度で見殺しにするようでは、国交省の施策を誰も信用しなくなってしまう。一定以上の利用実態があれば機器更新に補助を出すなり、タッチ決済やQRコードへのキャッシュレス手段の早期移行を支援するなど、国は具体的な手助けを行う時が来ているのではないか。
繰り返しになるが、地方ではキャッシュレスに対応したからといって乗客が爆発的に増えるわけでもない。キャッシュレス導入時の難点であった費用負担問題に、否が応でも向き合う時期が来ている。