事故の真相究明を求める声と、
不毛なたたきの連鎖

 筆者と同じように、息子を兵役に送ったり、除隊して戻ってきたりした友人知人は、今回の事件に皆、強い関心を示している。しかし身近では兵役中に事故やトラブルに巻き込まれたという話は聞いたことがないし、むしろ、部隊に配属された際には直属の先輩兵からあいさつの電話をもらってその対応に驚いたり、訓練所や部隊が兵役生活の様子をSNSで公開したりと、透明性やコンプライアンスの強化に努めていることを感じていただけに、今回の死亡事故には驚きを禁じ得ない。

 通常、訓練中の体調不良や負傷をした場合には、訓練所内の医療施設で治療や手当てを受け、状況に応じて訓練所外の軍病院または民間病院へ移送される。また、猛暑や寒波の時期には野外訓練活動は制限され、屋内訓練やビデオ視聴に代替されるなど、軍の対応にも変化の兆しが見られるようになっていた。

 事故の真相究明が待たれる中、当時の訓練を指揮していたのが女性の中隊長教官であったこと、事件後に彼女を「メンタルケアのため」として実家に帰宅させたことに対し、「事件を隠ぺいしようとしている」「本来なら身柄を拘束して事情聴取すべきところを、女性だからこんなに甘い対応なのか」など、軍への強い不信感と女性憎悪の声がニュースのコメント欄を埋め尽くしている状況だ。

 こうした人命に関わる重大な事故が起こると、事故の検証や再発防止に向けた建設的な議論よりも、まるで「犯人捜し」のように「誰かのせい」にして感情的にたたくという不毛な流れが繰り返される。時には政治的な思惑から「政争の具」に利用されることもある。

 今回も、特に江原道の事件を巡って、軍の元関係者が軍の対応を批判したり、軍の判断の遅れが訓練兵の死につながったとして医師会が「関係者を殺人罪で起訴すべき」と声明を出したり、中道派の新党「改革新党」が女性教官の実名を暴露したりと、軍に対する非難の声が日に日に高まっている。

 軍の対応に問題があったかどうかを冷静に見極め、関係者に対する適切な処罰を求めることは必要だが、ターゲットをさらし上げ、憎悪や怒りの感情を爆発させてたたいたところで、亡くなった訓練兵が生き返るわけではない。ただただ不毛な行為だ。