英国では、政治家の行動規範が定められており、パワハラなどを行った疑いがあれば、独立性のある調査が行われるという。特集『公務員970人が明かす“危機”の真相』の#13では、元総務省幹部で、中央省庁の人材マネジメントなどに詳しい吉牟田剛・政策研究大学院大学教授に、公務員の人材流出の一因になっている政治家からのパワハラの防止策について寄稿してもらった。
部下の公務員へのパワハラ疑いで
英国首相側近の副首相が辞任
人材の確保・育成のため、パワハラ撲滅・待遇改善は霞が関だけでなく、日本全体で取り組むべき重要課題である。本稿では、英国の閣僚、与野党議員におけるハラスメント防止策を紹介する。また、どうして今、人材の確保・育成が重要なのかを述べる。
英国の大臣規範(Ministerial Code)とは、閣僚に期待される行動基準とその職務の遂行方法を定めた規範である。
遅くとも第2次世界大戦後、内部回覧として存在したものが、1992年に公表され、現在の名称、内容になっている。この大臣規範は首相の責任でまとめられ、政権交代、スキャンダル対応などの際に改定される。現在の規範では、規範に違反したと思われる事件については首相が指名する独立顧問が調査を行う。
昨年4月、英国のラーブ副首相兼司法相は、部下の公務員に対する「威圧的」で「横暴」な態度を指摘する調査報告書が公表されたことを受け、辞表をスナク首相に提出した。
ラーブ氏は、外相および司法相であった時期、部下24人に対するパワハラ行為があったと正式な告発が8件あり、事実関係の調査が行われていた。ラーブ氏は、スナク首相の側近であったが、大臣規範に違反するとの調査結果を受け、スナク首相の判断を待たず、自ら辞任することとなった。
次ページでは、現役の有力閣僚であっても、パワハラやセクハラの疑いがあれば容赦なく調査を行い、辞任させるなど、公務員を守る機能を果たす英国の大臣規範の運用など詳細を明らかにしてもらう。