レトロブームというものは、自分の時間軸と離れているほど、その時代の文化やデザインにお洒落さや新しさを感じ、心を揺さぶられるのかもしれません。2019年に平成が終了したことを考えると、今後は「平成レトロ」「平成ノスタルジア」と言うべきデザインが、新たなヒットを生み出す可能性もあるでしょう。

クラシックデザインの最上位チェキが売れる

 富士フイルムの「チェキ」は、平成時代に一世を風靡したインスタントカメラです。スマートフォンが登場する前の1990年代、撮ったその場でプリントできるチェキは、女子高生の間で大ブームになりました。

 しかし2000年代、デジカメの普及とともにチェキの販売も一時落ち込みましたが、2012年、世界で一番かわいいインスタントカメラとして発売した「INSTAX mini 8」を機に再びヒットを飛ばします。「INSTAX mini 8」はピンク、ブルー、ホワイト、イエローなどのパステルカラーを採用し、若年層を中心に人気を集めました。また、フィルム撮影を経験したことがない世代にとって、アナログな撮影体験は逆に新鮮で、チェキプリントならではの温かみのある画質も好まれました。

 その後も新製品の発売は続き、2021年には種類のレンズエフェクトと10種類のフィルムエフェクトを組み合わせることで100通りの写真表現ができる「INSTAX mini Evo」が登場。高級感あるクラシカルなデザインも特徴です。

 販売価格は2万5800円(税込)と高価にもかかわらず、幅広い層に受けヒットしました。「mini Evo」のこだわりは、「持っているだけで嬉しくなるカメラ」。ダイヤル操作でエフェクトを選択し、プリントするときはレバーを引くなど、手触りのある操作感も特徴となっています。

 開発チームとしては、プリントレバーなど「本当にいる?」と思うパーツもあったといいます。しかしユーザーの意見を聞くと、「ボタンを押すだけでプリントできるよりも、レバーを引く“ひと手間”が使用感として良い」という答えが返ってきたそうです。その方が、銀塩カメラのフィルムを巻き上げるレバーをいじっているような気分になれるから、と。

 クラシックカメラならではのレザー調の質感に、気品のある佇まい。デザインだけでなく、レンズダイヤルやフィルムダイヤル、プリントレバーの操作音やアナログな操作感をとことん追求したことが、「mini Evo」のヒットの秘訣だったのではないでしょうか。

(※記述は本書刊行時のものです)