株主総会2024#8Photo by Manami Yamada

開催のピークを迎える今年の株主総会では、「ESG(環境、社会、企業統治)」の「E」や「G」に関する株主提案が目立つ。そんな中、「S」に関する株主提案にも積極的なのが、新興アクティビストのナナホシマネジメントだ。今年の株主総会では、わかもと製薬に対し「実験動物の購入頭数の開示」を提案した。その真意をトップに直撃し、株主総会で予定している質問内容や、今後に向けた取り組みについても語ってもらった。(ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)

ESG投資の原点は資格取得
海外事例を国内企業に生かす

――ナナホシマネジメントがわかもと製薬に株主提案した6項目にはESG(環境、社会、企業統治)全ての要素が含まれています。EとSとG、全ての観点に基づいて投資判断をしているのでしょうか。

 その通りです。2022年に独立した当初から、ESG全てで改善点がある企業に投資するという運用方針です。

 独立後に最初に投資した焼津水産化学工業もそうです。例えば、同社の設備は沿岸部にあり、本店の近隣部は海面上昇のリスクにさらされていました。そのため、海面上昇をはじめとした気候変動リスクを精緻に評価し、株主に説明すべきだと考えました。これはEに該当します。

 他にもSでは食品の不正表示への対応不足、Gについても静岡銀行からの天下りなど、非常に多くの改善点がありました。

 今回株主提案したわかもと製薬も、ESG全てで改善余地があると考えています。

――ESGの観点で投資する考えに至ったのにはどのような背景がありますか。

 日本株式のアナリストや英ロンドンで欧州株式のファンドマネージャーを務め、スイスのロシュやノバルティスなど医薬品セクターにも投資していました。その後、転職先のストラテジックキャピタルでの経験が、日本における株主アクティビズムの考えの土台になっています。

 加えて、ストラテジックキャピタルに在籍していた21年から、ESGの難関資格を多く取得し始めました。これが今の投資に生かされています。

 例えば今回わかもと製薬に提案した「気候変動リスク対応として、政策保有株式に係る温室効果ガス排出量持分を開示すること」「動物福祉への取り組みの透明化として、実験動物別購入頭数を開示すること」や、昨年の株主総会で焼津水産化学工業に提案した「気候変動リスク対応として、ネットゼロ移行計画を策定・実行し、株主資本コストの低減を図ること」は、ESGの資格取得の際に勉強した経験が基になっています。

 ESG関連資格の勉強をするメリットは「この海外企業の事例は、日本国内のこの企業に適用すれば株主資本コストの低減を通じて株主価値向上につながるのではないか」という視点が身に付くことです。

 ESGのGを良くすることはもちろん大事ですが、資本政策以外にも、ほんの少しだけ変えれば株主価値の向上につながるという発見がありました。焼津水産化学工業やわかもと製薬への提案も、この考えに基づいています。

――EとSとGは、全て株主価値の向上につながりますか。EやSばかりを追っていても、リターンが向上しないという指摘があります。

 その考え方がおそらく主流です。しかし私はそう思いません。上場企業として、株主が投資に際して考慮するリスクをコントロールすることは当たり前だからです。株主資本コストが下がれば、株価は上がります。

 そのほかに、何でも全て開示させようとすべきではないとの指摘があります。この点は私もその通りだと思いますので、ESGの中でも、特に株主価値の向上への影響度が大きい内容に絞って提案しています。

――わかもと製薬に対してはSに関連して、実験動物の動物別購入頭数の開示を株主提案しました。なぜ開示を求めているのでしょうか。

実験動物の購入頭数の開示について、機関投資家にも説明に回ったという松橋氏。次ページではそれへの反応に加え、株主総会で予定しているという質問内容や、今後働き掛けるテーマについても聞いた。