(2)脈絡もなく出てくるキーパーソン
「会長に聞いてみんと分かりませんねん」「私はいいと思てますねんけど、部長が納得してくれへんのですよ」。これは、商談に進んで金額を提示したり、具体的に話が進んだ段階でよく使われるフレーズです。キーマンの在社時間を聞いても「いや~、あの人ね~あんまり会社に来ないんですわ、ハハ」とはぐらかされることでしょう。ほんまにその人存在します?しませんよね?
(3)省略しすぎて伝わらないいけず
「おおきに、すんません」「がんばってくださいね」「またご連絡しますね」。穏やかな笑顔を浮かべて、こう言われると勘違いしてしまうかもしれません。でも、実はこれ、全部お断りです。分かりやすくするために、本音をかっこで入れてみましょう。
「(勧めてもらって)おおきに、(うちはお断りします)すみません」「(うちには難しいですが、きっと他の人には売れると思いますよ)がんばってくださいね」「また(必要になったらこちらから)ご連絡しますね」
これは、いけずの真骨頂ともいうべきパターン、「文章省略しすぎ系のいけず」です。文脈、読めよ?という京都人の強い圧を感じます。といいつつ、私自身もこの省略パターンは意図することなくまれに使ってしまうことがあります。DNAに刻まれた京都人の性でしょうか。
営業を受ける側も「せっかく営業に来てくれたのに悪いな、はっきりお断りを言うのも心苦しいな……」という気持ちを持っていいます。京都は狭い街ですから、営業の人とどこかで会うこともあるかもしれない。そのときにちゃんとお互いに気持ちよく話せる関係性でいたい。そんな思いが根本にあるのです。
アルハラ、無茶振りも
いけずで撃退できる
このように、相手に角を立てないように気配りするコミュニケーション手法が、いわゆる「いけず」です。
京都以外の人にとっても、いけずというコミュニケーション術は、面と向かって断りづらいときには有効かもしれません。やんわりと意思を伝えたいときに使ってみるのもよいでしょう。
例えば、取引先やお客さんに無理なお願いをされたとき。とんでもないむちゃを言うてくる客、いますよね。嫌ですね。私も嫌いです。それでもやはり、無理です!とはっきりお断りするのも言いづらい。そんなときこそ、いけずの出番です。
「上司がどうしてもアカンって言うんです、僕が不甲斐ないばっかりに、すんません」。まずは、脈絡なくキーマンの存在を出しつつ、へりくだる。これが京都人の王道お断りです。
何度も言ってくる人には、もう少し踏み込んでもいいかもしれません。「面白いこと言わはりますねえ」。全く面白くないタイミングで言うときにこそ、最大の効果を発揮するこのフレーズ。首をかしげながらにっこり、これが最大のポイントです。
社内の上司や同僚に対してもいけずは有効です。例えば、断っているのにお酒を勧められたとき。いわゆる、アルコールハラスメントです。そんなときは相手を褒めつつ、へりくだる。これにつきます。
「○○さん、お強いですもんねえ、私なんか一杯で救急車来ますわ。お気持ちだけ、おおきに」。救急車騒ぎをするわけにはいきませんからね。間髪入れずにウーロン茶を注文しましょう。
相手に嫌な思いをさせることなく、やんわりとお断りする。それがいけずの本来の使い方です。言いたいことも言えないこんな世の中を、悠然と渡っていきたいものですね。そのひとつの手段として、ぜひ「いけず」をご活用くださればと思います。