所得代替率「改善」の楽観論は危うい
蓋然性が高いのは「過去30年投影ケース」
7月3日に、2024年度の公的年金財政検証の結果が公表された。
将来の年金の見通しが四つのケースで想定され、そのうちの「高成長実現ケース)(ケース〈1〉)と「成長型経済移行・継続ケース」(ケース〈2〉)では、積立金の枯渇や年金額の大きな減少などの深刻な問題は起きないとされている。
そして、前回の19年財政検証に比べると、平均的な会社員と配偶者の「モデル世帯」は、現役の手取り収入に対する年金の所得代替率の見通しが好転しているため、楽観的なムードが広まっている。
しかし、これは極めて危険なことだ。
なぜなら、深刻な問題が生じないのは経済成長が順調なケース(1)と(2)に限ったことであり、そこでは実質賃金の上昇率がそれぞれ2%と1.5%という非常に高い値に設定され、保険料収入が増える前提になっているからだ。
だが日本の実質賃金は長年にわたって減少傾向にある。最近では、25カ月連続で対前年上昇率がマイナスだ。こうした現状と比較すると、ケース(1)、(2)は非現実的だと言わざるをえない。蓋然性が高いのは「過去30年投影ケース」(ケース〈3〉)だ。
前回の財政検証時、金融庁の審議会が年金で暮らす夫婦世帯は「老後に2000万円必要」とする報告書を出まとめて波紋を呼んだが、それ以上の老後の貯蓄が必要な事態があり得る。