円安を食い止める要素は?
「もしトラ」ならドル切り下げか

 円安の要因は、すぐには変わらないだろう。内外の実質金利差の縮小には時間がかかる。労働市場の引き締まり方に緩みが出つつあるものの、米国の賃金上昇率は、物価の上昇ペースを上回っている。実質賃金がプラスの間、米国の個人消費はそれなりの底堅さを維持する可能性がある。

 7月第1週が終了した時点で、市場参加者は、年内にFRBが2~3回の利下げを行うと期待している。予想通りに利下げが実現するか、不透明な部分はある。一方、日本銀行は金融政策の正常化を慎重に進めるとみられる。ただ、内外金利差の本格的な縮小には時間がかかる。すぐに円安を止められるパワーはないだろう。

 わが国の企業の多くは、今後も高い成長が期待できる海外に進出するだろう。国内から海外に向かう資金は増える可能性がある。中長期的に経常収支の黒字幅は、縮小することも考えられる。

 財政赤字と国債の残高が増加傾向をたどる可能性は高い。5月末、財政赤字が拡大する懸念から大手信用格付け業者はフランスを格下げした。今すぐではないだろうが、信用格付け業者が日本国債を格下げするリスクはある。そうしたことからも、世界の主要投資家が積極的に円を買うことは考えづらい。

 一方、円安を食い止める要素も考えられる。再度、財務省が為替介入を実施する可能性だ。ただ、その効果は一時的なものにとどまるだろう。ある意味、一種の時間稼ぎといえる。

 米大統領選挙の結果が、円の為替レートに影響を与えることも考えられる。トランプ氏はドル高を好んでいないようだ。トランプ陣営が「ドル切り下げを検討」との報道もあった。トランプ氏再選の場合、米国の為替政策はドル安重視に傾く可能性はある。

 米国の個人消費支出の伸びのペースが穏やかになり、日米の実質金利差が縮小することも円売り圧力を弱める要素になるだろう。ただ、ドル安は米国のインフレ懸念を再燃させるリスクもある。また、わが国経済を取り巻く主な円安要因に大きな変化がない限り、円の本格的な反発は難しいだろう。当面、円安傾向は続くとみた方がよさそうだ。