ルイ・ヴィトンのパリ本社に17年間勤務しPRトップをつとめ、「もっともパリジェンヌな日本人」と業界内外で称された藤原淳氏が、パリ生活で出会った多くのパリジェンヌの実例をもとに、「自分らしさ」を貫く生き方を提案したのが、著書『パリジェンヌはすっぴんがお好き』。著者が言うパリジェンヌとは、「すっぴん=ありのままの自分」をさらけ出し、人生イロイロあっても肩で風を切って生きている人のこと。この記事では、本書より一部を抜粋、編集しパリジェンヌのように自分らしく生きる考え方をお伝えします。

【日本の常識はパリの非常識】なぜ心のドロドロをさらけ出すべきなのか?Photo: Adobe Stock

世界一のブランドに勤めて一番良かったと思ったこと

 世界一のブランドに勤めて一番良かったと思うのは、揺るぎない向上心を植え付けられたことです。ルイ・ヴィトンは業界のリーダーですが、その座に満足するのではなく、リーダーにしかできないことを常に模索しています。「可能性は無限大」というのは、ルイ・ヴィトンの親会社であるLVMHグループの会長兼CEOのベルナール・アルノー氏が好んで使う言葉です。そんな会社に集まってくる人間も皆、無限大のパワーを持つ一流の人材です。

 少なくとも入社して数年経った頃、私には周りの人間が皆、そう見えていました。どんな仕事でもやりこなし、それでも5週間のバカンスをきっちり消化する余裕を持つ幹部。素敵な配偶者と賢い子ども達に恵まれ、それでいてヨガやエステに通って自分磨きを怠らないパリジェンヌ。無理難題を吹っかけられても解決先を見つける根性と行動力を併せ持つスタッフ。右を向いても左を向いても、キラキラ輝くスーパーマン、スーパーウーマンばかりでした。

 そんな中、私はキラキラどころかドロドロでした。イベントに次ぐイベントで息をつく暇もない中、毎日仕事をしまくるのですが、評価されるどころか同僚からはうとまれていました。金髪美人のジュリエットが転職してしまった後、新しく外から入ってきた上司とは相容れず、険悪な雰囲気に。私生活では、数年前に籍を入れていたフランス人の配偶者といろいろ煮詰まってしまい、こちらは離婚を決意するも猛反対され、泥沼化。海外出張続きで時差ぼけの身体を労る時間も気力もなく、持ち前のアレルギーが悪化。

精神のバランスが崩れる前に身体が危険信号を発してくれた

 心身共に疲れがたまっていた私は、ある夜、仕事でカクテル・パーティーに出席している時、気絶してしまいました。かなり無理をしていたようです。精神のバランスが崩れる前に身体が危険信号を発してくれたのでしょう。大したことはなかったのですが、倒れた時に軽く頭を打ったため、救急車騒ぎになってしまい、精密検査のために救急病院に運ばれました。

 真夜中の救急病院ほど心がすさむ場所はありません。警察に連行され、手錠をかけられたまま診察に来る人、震えが止まらず救急車で運ばれる老人、重度の火傷で担ぎ込まれる患者……。普段の生活とはかけ離れた光景が目の前に繰り広げられています。頭を打ったとはいえ、五体満足で無症状の私はもちろん後回し。数時間待たされることになりました。

(何やってるんだろう、私……)

 自分のしていることの意味さえわからない私は疲れ切っていました。放心状態で薄暗い廊下のすみっこに座っていると、事情を聞きつけて駆けつけてくれた人がありました。意外や意外、いつも意地悪を言ってくるファッションPRのファニーです。彼女の顔を見た瞬間、急に心が締め付けられた私は涙をポロリとこぼしていました。

「離婚は長丁場の戦いだから。無理したらダメじゃないの」

「今、離婚とかで、いろいろキツくて」

 そう漏らすとファニーは、

「離婚は長丁場の戦いだから。無理したらダメじゃないの」

 怒ったようにそう言うと、どすんと隣に腰掛けました。そして精密検査が終わる明け方までずっと一緒にいてくれました。

 それまで知らなかったことですが、ファニーも実は離婚経験者。幼い子が2人いるシングルマザーです。その夜、ファニーは驚くほど赤裸々に自分の離婚話をしてくれました。離婚はする方もされる方も相当キツいこと。別れるには、交際を始める時の10倍くらいのパワーが必要なこと。まだ心の傷が癒えていないこと。あんなに自信たっぷりに見えたファニーも自責の念に駆られる一人の女性だったのです。