映画やアート、音楽を
楽しむ「センス」を身に付けられる1冊
最後に3冊目を紹介する。
『センスの哲学』(文藝春秋)は、アートや音楽、映画や小説などを味わう際の「センス」をよくするにはどうすればいいのか――がテーマのベストセラーだ。
本書の著者は、立命館大学大学院の教授であり、哲学者の千葉雅也氏である。千葉氏によると、芸術に接する際の「センスがいい人」は、全体ではなく細部に着目するという。
例えば、恋愛映画を見るとしよう。この際、何となく映画を見て「恋愛って良いな」「人を愛することが大切なんだな」といった漠然とした感想を持つ人がいるだろう。
一方で、特定のワンシーンや思いがけない場面転換、ストーリーとは直接関係のない背景や物に注目し、そこに込められた登場人物の感情や、作り手の狙いに思いを馳せる人もいるだろう。両者を比べると、やはり後者の方が映画を味わうセンスがあると言える。
絵画においても同じだ。例えば抽象画を見たとき、「よく分からないな」「何を描こうとしているのだろう」といった感想を持つのではなく、描き方や色使いから何かを感じ取れる人は、楽しみ方のセンスがある。
本書を読むことで、筆者は「人とは違う視点でものを見て、思いがけない発見ができること」こそがセンスなのではないかと気づかされた。そして、この営みは美術・芸術の鑑賞だけでなく、ビジネスの世界にも応用できそうだと感じた。
何となく外を歩くのではなく、街を彩る広告や道行く人のファッションなどの「細部」から、アイデア創出やイノベーションのヒントを得る。商談相手が話す内容だけでなく、表情や空気感などの「言外の要素」から本音を読み取る――といった具合だ。
仕事から少し離れる夏季休暇のうちに、本書に書かれていることを身に付けて、ぜひ「センスあるビジネスパーソン」をめざしてみてほしい。