コロナ禍のタイミングで「マスクで口元を隠せるうちに」と空前の歯列矯正バブルが巻き起こり、マウスピース矯正サービスで“激安”をうたう価格競争が繰り広げられてきた。このバブルが終了して一転、淘汰の波が押し寄せている。2023年末には全国展開していた大手医療法人が破綻した。特集『歯医者「減少」時代』(全26回)の#5では、成長の一途をたどっているかに見えたマウスピース矯正市場の危うい実態をレポートする。(ダイヤモンド編集部 野村聖子)
マウスピース矯正を多店舗展開した
歯科医院チェーン大手が破綻
2023年9月末、全国で23カ所の歯科医院を展開していた医療法人社団友伸會(東京都豊島区)が、37億3370万円の負債を抱えて東京地方裁判所に民事再生法の適用を申請した。
もともとは個人の歯科医院で保険診療を主としていたが、徐々に激安インプラント治療にシフトして規模を拡大。15年時点では10医院を展開するまでになっていた。
そこからさらなる成長を求めて起爆剤としたのがマウスピース矯正だ。2000年代中盤に日本に進出した米国発の歯列矯正サービス「インビザライン」によって普及したこの新技法は、従来のワイヤー矯正に比べて自分で取り外しができる上に目立たないという手軽さで、患者からの支持が年々高まっていた。友伸會も17年からマウスピース矯正サービスの一つ「キレイライン矯正」を主力事業とし、新規開院や歯科医院との提携を進め、マウスピース技工会社も傘下に収めた。
この賭けは大当たりした。20年からの新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的流行)でマスク生活を余儀なくされたことにより、「口元が見えないうちに」と、空前の歯列矯正ブームが到来したのだ。
東京商工リサーチ調べによれば18年から21年の3年間で友伸會の売り上げは約8倍に急拡大し、グループ全体の年間売上高は100億円を超えた。歯科医院チェーンでは国内最大級の事業規模に達した。
しかし、わが世の春を謳歌していたのもつかの間、それから3年足らずで経営破綻の憂き目を見ることになる。
業界最大手の医療法人が瞬く間に転落――。友伸會は何をしくじったのか。
次ページでは、友伸會のしくじりを徹底解剖。コロナ禍の矯正バブル以降に参入が相次いだ、マウスピース矯正業界の経営実態を明らかにする。