こうした事態を受けてIOC(国際オリンピック委員会)は8月1日に会見を行い、AIを活用したリアルタイムの「オンライン暴力の検出(any online violence targeted towards athletes)」「サイバー虐待防止サービス(the cyber abuse prevention service)」などの初の試みについて説明した。AIでオンラインを監視し、誹謗中傷などから選手を保護する試みがパリ五輪で行われていたわけである。実は今年6月、IOCのバッハ会長がすでにこのAIの導入に言及していて、大会期間中はAIが悪質な投稿を自動的に削除するとのことであった。
だが、それが完全な防護壁となるには至らず、多くの誹謗中傷が選手に届いてしまったのが現実だ。ネットコミュニケーション全盛のこの時代において、誹謗中傷の悪意から個人を守ることがいかに難しいかが、改めて痛感させられたのであった。
実は行われていたAIによる誹謗中傷対策
悪質投稿の非表示や投稿者の逮捕まで
IOCのAIを用いた試みでは、誹謗中傷となる言葉の検知と削除、および投稿者(発言者)への警戒、被害者へのケアの準備などが可能になると説明されていた。同種の試みは特にスポーツの分野で近年注力されてきている。FIFA(国際サッカー連盟)の事例を見てみよう。
FIFAとFIFPro(国際プロサッカー選手会)は、2022年ワールドカップ時に「ソーシャルメディア保護サービス(SMPS)」というサービスを導入した。不適切なメッセージが確認されるとそれが選手個人に届かないようにする措置(投稿の非表示、および削除)と共に、SNS運営企業と警察に連絡が行き、その後不適切投稿を行った者に対して現実的な対応が可能となる……というものである。これによって約2万件が誹謗中傷と判断され、28万件以上の投稿が「誹謗中傷の疑い」として非表示になったとされている。
SMPSが検出した「悪質な投稿」の中にはSNS運営団体が放置したものがあったこと、英語以外の言語による誹謗中傷への対応に時間を要することなど、課題も散見されるが、こうした取り組みは有意義である。
【参考】
カタールW杯のSNS誹謗中傷データが判明…GLはドイツvs日本が最多検出、大会期間中28万件超の投稿が非表示に
https://web.gekisaka.jp/news/worldcup/detail/?387267-387267-fl