ルイ・ヴィトンのパリ本社に17年間勤務しPRトップをつとめ、「もっともパリジェンヌな日本人」と業界内外で称された藤原淳氏が、パリ生活で出会った多くのパリジェンヌの実例をもとに、「自分らしさ」を貫く生き方を提案したのが、著書『パリジェンヌはすっぴんがお好き』。著者が言うパリジェンヌとは、「すっぴん=ありのままの自分」をさらけ出し、人生イロイロあっても肩で風を切って生きている人のこと。この記事では、本書より一部を抜粋、編集しパリジェンヌのように自分らしく生きる考え方をお伝えします。
あんた、ストレスため込みすぎよ! 身体に悪いわよ
今日のランチの相手は日刊紙の文化担当編集長。その道30年、有力なスポンサーがついた大規模な展示会でも平気でこき下ろすことで有名なベテラン記者です。
その頃、ルイ・ヴィトンはアーティストとのコラボ全盛期でした。今でこそ、どのブランドもやっていることですが、当時はまだ、「純粋」なアート関係者からは「アートを商品化するなんてけしからん」「ファッション業界にアートの何がわかるというのだ」と嫌な顔をされることがたくさんありました。
コーポレートPRである私の目的は、編集長にルイ・ヴィトンが100年以上も前からアートの世界に携わっていることを説明すること。ファッションとアートという異業種が融合することによって生まれる魔法を理解してもらうこと。そしてもちろん、最新のアート・プロジェクトについて記事を書いてもらうことです。
今回のランチに私が選んだのは、本社の近くにあるこぢんまりとしたビストロです。ヴィー、ことヴィヴィエンヌというゲイの店長がこまやかな気配りをしてくれるため、私ばかりでなく、業界関係者に重宝されているレストランです。
チキンのシャンパン煮をつつきながらルイ・ヴィトンの歴史を説明し、相手の関心をそそろうとするのですが、全く反応がありません。こちらが必死になればなるほど、空回りしてしまいます。編集長を見送った後、私はカウンターでヴィーが用意してくれた薬を飲んでいました。胃が痛くなってしまったのです。
「あんた、ストレスため込みすぎよ! 身体に悪いわよ」
そうなのです。プレスとのランチは私の大きなストレスになっていました。もともと広報という職種を夢見ていたわけではありません。たまたま前職が在仏日本国大使館の文化広報担当であったため、流れに乗ってここまで来てしまった私です。「場違い感」はまだありました。
あの編集長、つまらなさそうな顔してたわよー
(自分はやはりPRに向いていないのかもしれない……)
そう落ち込んでいるところにヴィーがとどめを刺すように言いました。
「あの編集長、つまらなさそうな顔してたわよー」
苦笑していると、ヴィーはハーブ・ティーを注いでくれながら続けました。
「因果な商売ね、あんたも。何でも売り込まなくちゃいけないんだから。でもさ、あんたのところのファニーもよくうちに来るけど、いつも楽しそうに記者とランチしてるわよ?」