また、経営企画部がお墨付けした「虎の子の」新規事業は、120%成功するはずだ(あるいは、是が非でも成功してもらわないといけない)、というのが経営企画部の考えです。したがって、「もうどう考えても難しいだろう」という段階になっても、撤退の意思決定が下せない状況に陥ります。

 いわゆる、“Living Dead”として事業として社内に残り続ける場合が多いです。この“Living Dead”の存在も、「新規事業って上手くいかないんだー」という社内の認識を強化していくことになります。

 そして、新規事業の提案の数自体も減っていきます。日本企業では、新規事業募集のアクセレレーター的なプロジェクトを肝入りで開始しても、2~3年を経ると、応募の数が減ってきて、そのアクセレレーター・プログラム自体が存続しなくなってしまう場合があります。これまで、そういう実例を多く見てきました。

 2018年の講演で、アラン・ケイは皮肉たっぷりに、話の途中のスライドで下記のような文章も示しました。

新規事業はなぜうまくいかないのか?「少産多死」の悪循環から逃れる意思決定とは

 まさに、予測に基づいた意思決定を続けていると、このような均衡に遠からず陥りそうです。

新規事業のキャッシュフロー予測
など、本来できるはずがない

 では、この問題にどう対処していけばいいのでしょうか。問題をもう少し整理してみましょう。

 まず問題なのは、経営企画部が「予測」を新規事業提案者に強いている点です。アラン・ケイもその点に憤慨して、前掲の言葉を発したのです。もともと、新規事業のキャッシュフローの予測なんて、かなり難しいでしょう。それは、新規性・独創性が高くなればなるほど(アップサイドが大きく、高いリターンを生み出す可能性があるプロジェクトであればあるほど)、キャッシュフローの予測はより難しくなるはずです。

 つまり、アラン・ケイのここでの不満は、彼がやりたいことになればなるほど、経営企画部からのコミットメントを得るのが難しくなる状況を憂慮していると言えます。