2001年にAOM(Academy of Management)に掲載された論文で、バージニア大学のサラス・サラスバシーは、成功した起業家の行動様式としてエフェクチュエーション・ロジックを提唱しました。その論文では、4つの望ましい行動様式が類型化されており、その一つが、「予測される期待リターンではなく、許容可能なコストをベースにして、新規事業を始動させるかどうか判断すべき」というものです。

 つまり、新規事業を始めるにあたっては、どこまでならロス(コスト)が出ても許されるかを設定せよ、と説きます。その設定される「許容可能なコスト」水準を超えない限りであれば、その新規事業を始動・継続してよいという判断になります。

悪循環を良循環へと変化させる
意思決定方式とは

 この意思決定方式は、起業家だけではなく、事業会社の新規事業に対する意思決定においても有用です。まずは、トライする新規プロジェクトの数が増えるでしょう。つまり、新規事業の母数が増えるわけです。そして、時間の経過に従い、許容可能なコスト水準を超えてしまったプロジェクトについては止める判断が可能になるので、淘汰されていくことになります。

 その結果、動いている新規事業に限れば、少なくとも「許容可能なコスト」をまだヒットしていないわけですから、それなりのプロジェクトが残ってくる状況になります。このプロセスが始まれば、先ほど説明した「悪循環」が、「良循環」に転化していくのではないでしょうか。

 将来のリターンの予測に汲々とするのではなく、許容可能なコストの設定に基づいて意思決定を行うことによって、

 “The best way to predict the future is to invent it.”

 が、夢想するプロセスを現実化できるのではないでしょうか。

(早稲田大学ビジネススクール 准教授 樋原伸彦)