「税金を払わせる研究」で解明された“人をコントロールする”方法とは。ビジネスシーンでも応用可能な「禁断のマネジメント術」を精神科医が解説する。※本稿は、ターリ・シャーロット著、上原直子訳『事実はなぜ人の意見を変えられないのか 説得力と影響力の科学』(白揚社)の一部を抜粋・編集したものです。
なぜ、あいつの言うことを
素直に受け入れたくないのか
「コントロールすること」と「影響を与えること」は密接に関連している。誰かの信念や行動に変化を与えるとき、あなたはある程度その人をコントロールしている。逆に影響を及ぼされるとき、あなたは相手のコントロールを許している。
だから「人間」と「コントロール」の繊細な関係を理解することは、「影響力」を理解するための基礎となる。それが理解できれば、私たちが影響されるのをいつ拒み、いつ受け入れるのかを、より正確に予測することができるかもしれない。
他人に影響を与えるためには、コントロールしたいという衝動を押さえ込み、相手が主体性を必要としているのを理解することだ。人は自分の主体性が失われると思ったら抵抗するし、主体性が強まると考えたら、その経験を受け入れ報酬とみなすものだからだ。
この原理をとてもわかりやすく示しているのが税金だ。税金を納めるのは、正直なところ嬉しい行為ではない。納税は正しい行動だと心から同意していても、自分が稼いだお金の30%か20%を(もしくは10%だとしても)、嬉々として政府に差し出す人はあまりいないだろう。
実際、この苦役をすっかり回避してしまおうと考える人もいる。アメリカにおける年間脱税額は、4580億ドルにも上るのだ。しかもこの数字には、合法的に税制の抜け穴を利用する人々の手に落ちる額は含まれていない。
そこで想像してみてほしい。あなたは政府の役人で、この数字を大幅に減らす任務を負っている。国民に税金を払わせる従来の方法としては、罰金を増額する、税務調査を強化する、国にとっての税金の重要性を広報する、などが挙げられる。それはそれで有効だが、不払い率は高いままだ。さて、あなたならどんな方法をとるだろう?
寄付や買い物はいいのに
なぜ納税だけが苦痛なのか?
ひょっとして、税金をもっと楽しく支払えるようにはできないだろうか?極端なアイデアに聞こえるかもしれないが、まずは納税がなぜ苦痛なのかを考えてみよう。
税金として収入から相当額が差し引かれるわけだが、人が税金を嫌がる理由はそれだけではない。給料の30%を自分が選んだ慈善団体に寄付する分には、誰もさほどの不快感を覚えないに違いない。