税金の使い道について希望を述べる機会が与えられなかった群では、3人に2人(約66%)が法の抜け穴を利用したいと答えた。対して、発言の機会が与えられた群でそう答えたのは半分以下(44%)だった。この研究から、税金の使い方について情報を与えるだけでは不十分だということが明らかになった。変化をもたらすには、主体感を与えることが大切なのだ。

 皮肉に感じるかもしれないが、他人の行動を変えたければ、コントロール感を与えるべきだ。主体性を奪われたら、人は怒り、失望し、抵抗するだろう。社会に影響を与えることができるという感覚が、意欲や順守率を高めるのだ。

 実験の参加者は実際にコントロールを任されたわけではなかった──自分たちの税金を何に使ってほしいか尋ねられただけなのだ。それでも、彼らの行動を変えるには十分だった。選択肢を与えられたら、たとえそれが仮定の話でも、コントロール感は増大し、それによって人々の意欲は高まるのだ。

ラットだってハトだって人間だって
生物は選択の機会があることに歓喜する

 なぜ私たちはコントロールを楽しむのか?自分自身で選択した結果は、押しつけられたものより自分の好みやニーズに合っていることが多い。だから私たちは、自分でコントロールできる環境の方が、高い満足度をもたらすことを知っている。

 選ぶという行為はコントロールの1つの手段だ。たとえば、あなたが観る映画を私が決めてあげるよりも、自分自身で決めた方が、自分が楽しめる映画を(たいていは)選ぶことができるだろう。自由選択後の結果は好ましいという経験を繰り返すうちに、私たちの心の中では選択と報酬の関係が強固になり、選択そのものが報酬──探し求め享受するもの──になってしまったようだ。

 ラトガーズ大学の神経学者マウリチオ・デルガード率いる研究チームは、実験から次のような結果を導き出した。選択の機会が与えられることがわかると人は喜びを感じ、脳の報酬系である腹側線条体が活性化する。人間は選択それ自体を報酬と捉え、選択肢を与えられたら、「選ぶこと」を選ぶのだ。

 選ぶことが好きなのは人間だけではない。動物も自由選択を好む。しかも動物たちは、選んでも結果が変わらない状況下でも、選ぶことを選ぶ。