ある行動が食べ物やお金や名声をもたらすことがわかれば、その後もまた同等のものを得るために、あなたは同じ行動を繰り返すだろう。しかし、何の努力もせずただ食べ物やお金や名声を与えられたら、この先同じものをくれるほどその人が親切なのかどうかは知りようがない。

 つまり、まったく何もせずに1000ドルを獲得したら、1000ドルは手元に残るが、将来どうやって稼ぐかという知識は残らない。反対に、たとえば調度品を売って1000ドル儲けたなら、1000ドル得するだけでなく、収入を得るための青写真が手に入る。

 あなたが取り組む物事は、望ましいものとして脳に記憶されなくてはならない。その価値は、そのもの本来の実用性と、将来利益を得るための情報の両方にある。生物としての人類が、自ら獲得に関わったもの──自らコントロールできるもの──を好むのは、適応のなせる業なのだ。

選択肢が多すぎて選べない人間を
コントロールするための仕掛けは?

 人間は選択を好むため、選ぶことを選ぶ。でも、複雑で骨の折れる問題に遭遇したら、決断を望まないこともある。たとえば、選択肢を与えすぎると、人は圧倒されて何も選べなくなる。

他人をコントロールする禁断の方法が実験で判明、苦痛なはずの「納税」すら楽しくなる!?事実はなぜ人の意見を変えられないのか-説得力と影響力の科学』(白揚社) ターリ・シャーロット 著、上原直子訳

 これは、シーナ・アイエンガーとマーク・レッパーの有名なジャムの研究で実証された。アイエンガーとレッパーは、高級ジャムの種類が20以上あるときよりも6種類しかないときの方が、購入される確率が高いことを発見した。選択肢があるのは素晴らしいことだが、あまり多いと人はあっけにとられて、店を手ぶらで去ってしまうのだという。

 では、多数の選択肢から選ばせたいときはどうしたらいいのか?選択の樹形図を作ってみるのも1つの方法だ。ジャムの問題に当てはめてみよう。20種類のジャムをただずらりと陳列する代わりに、フレーバーごとに分けてみる。これで客は、ひとまずストロベリー、アプリコット、ブルーベリー、マーマレード、ラズベリーの5種類から1つの味を選べばいい。

 フレーバーが決まったら──たとえばアプリコットだとしたら、次は異なる4つのブランドから好きなアプリコットジャムを選ぶ。こうすれば選択のプロセスが簡易化されて、無理なく選ぶことができる。