30社近い中小企業を買収し、その多くでトラブルを引き起こした投資会社、ルシアンホールディングス。ルシアンは、売り手企業に対して何をしていたのか。またルシアンを買い手として紹介し、ビジネスを行った仲介会社はどう関与していたのか。特集『M&A仲介 ダークサイド』の#2では、ルシアン事件の全容を解説する。(ダイヤモンド編集部副編集長 片田江康男)
ルシアン事件とは何か
事件の全容をざっくり解説
2021年秋ごろから、日本全国で30社近い中小企業をM&Aで傘下に収め、その大半でトラブルを引き起こした投資会社、ルシアンホールディングス。代表者は24年1月ごろから連絡を絶ち、行方が分からなくなっている。そのため、ルシアン側の経営戦略やM&Aを繰り返した意図などは依然として不明だ。
だが、トラブルに巻き込まれた傘下企業の証言や、朝日新聞デジタルの連載「M&A仲介の罠」などの報道が進んだことで、全容が明らかになりつつある。
ルシアンが買収を繰り返す中で提示した会社資料によれば、同社が設立されたのは21年11月11日。本社所在地は東京都丸の内だ。「異業種一体型企業として年商100億円を目指す」という目標が掲げられ、企業理念として「多視点で事象を捉え、新たな企業形態を創造する」と記されている。
ルシアンは21年の設立直後から、結婚式場や車両部品・輸入車販売、砕石販売、土木工事、農業法人など、異業種を矢継ぎ早にM&Aで傘下に収めている。これは同社が掲げる「異業種一体型企業」「年商100億円」の達成に向けた取り組みの一環だったと推察できる。
なぜルシアンはM&Aを一気に進めることができたのか。その鍵を握っていたのが、M&A成立のためにアドバイスや交渉、手続きなどを手掛ける仲介会社だ。
日本の中小企業は、実に約127万社が後継者不在で、事業承継を早急に進めなければ廃業が続出し、日本国内のサプライチェーンが機能不全に陥るといわれている。そんな中で浮上したM&Aによる事業承継は、それを解決する有力な手段である。
国は中小企業のM&Aを後押ししようと、事業承継税制を整備したほか、「事業承継・引継ぎ補助金」を創設。M&A仲介会社に対しては「中小M&Aガイドライン」が作成された。
国のバックアップを受けたM&A仲介会社は、事業承継のために会社を売りたいという売り手企業と、企業買収で成長したいという買い手企業を探し、M&Aを成立させることに血道を上げた。M&A仲介会社のほとんどは、M&Aの成立によって報酬を得る成功報酬型であり、それも拍車を掛けることになった。
こうした背景があり、設立して間もないにもかかわらず、ルシアンは短期間で複数の企業を買収できたと考えられる。
ルシアンが引き起こすトラブルは、M&A成立後から始まる。次ページでは、トラブルの主な原因となった2つの問題を解説する。