「レモンの原理」(Lemon’s principle)は、ミクロ経済学の教科書に出てきます。供給側に情報が集中し、需要側の消費者には情報が伝わらない「情報の非対称性」によって、粗悪品が市場に出回ることがあります。このような市場を「レモン市場」といいます。

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 レモンには米俗語で「品質の悪さを購入後に知った中古車」という意味があるそうです。レモンは皮が厚いので、果肉の品質が外観からはわかりません。中古車も同じように、外観からは中の状態はわかりません。そのため、粗悪な中古車=レモンという俗語が生まれたわけです。

「情報の非対称性」とは何か、もう少し詳しく説明しましょう。

 資本主義市場経済の国では、「需要と供給の法則」により、需要側も供給側も価格の変動に応じて行動しているはずです。需要側は、同質の財・サービスであれば安いほうを購入するのが合理的で、供給側は、価格が上がれば供給を増やす行動が合理的です。

 需要と供給の法則が完全に機能している市場を完全競争市場といいます。完全競争市場が成立する条件とは何でしょうか。コロンビア大学教授ジョセフ・E・スティグリッツ(1943~)は次の4点をあげています※注1。

【スティグリッツによる完全競争市場の条件】
1.多数の市場参加者(生産者や消費者)が存在
2.財・サービスの質は同等
3.財・サービスに関する情報(価格、スペックなど)を市場参加者全員がもっている(情報の対称性)
4.市場への新規参入や撤退が自由

 1と2と4は独占市場、寡占市場、自由市場の問題ですが、スティグリッツが強調するのが3の「情報の対称性」です。市場参加者全員が同じ情報を有することを情報の対称性といいますが、これが完全競争市場の重要な条件なのです。しかし、現実の経済では、情報は供給側に偏在することが多い。条件を満たさない市場を不完全競争市場といいます。

 レモンの原理、レモン市場に話を戻しましょう。粗悪品が出回る市場では、消費者は売り手が正しい情報を提供していないことに気づきます。したがって価格がどんどん下がり、さらに粗悪品しか流通しなくなってしまい、市場は消滅するかもしれません。

 通常の市場経済では、競争によって品質のよいものが生き残ります。ダーウィンの進化生物学でいえば、適者生存であり、自然選択(Natural selection)です。レモン市場ではヤバい製品だけが生き残ることになるので、ミクロ経済学ではこれを逆選択(Adverse selection)といいます。