「需要と供給の法則」では説明が付かない
修理見積りの大きな差額

 筆者の事例に戻りますと、需要側の筆者にはクルマの大破の程度も詳細も見えません。損保会社の査定結果とディーラー側の修理見積りの大きな差額はさっぱり理解できないわけですが、当然のことながら、損保の査定額でオーケー、という修理会社に任せることにしました。

 筆者にこれっぽっちも責任がないとわかっていたので、損保の査定額を超える高額な要求をしてきたディーラー修理をやめましたが、もし多少の責任があるということならば、ディーラーの高額請求はそのまま支払ったことでしょう。

 ここで気が付いたポイントを挙げます。

〈需要側〉
筆者には大破の詳細情報はまったくない(自動車工学を理解できない)
〈供給側1〉
損保会社の査定は専門家が実車を見分すると言われているので、費用は標準的なものだと思われる
〈供給側2〉
ディーラー系修理の見積りは、市場価格というより自社の製造情報やコストを反映させたもので、損保会社の査定とは無関係だったことがわかる
〈供給側3〉
近所の修理会社は、修理コストをメーカーの資料で調査した結果、損保会社の査定額で引き受けたという

 これが「情報の非対称性」なのでした。それぞれ全く異なる情報をもとにした価格というわけです。

 情報を有する供給側の設定する価格は市場メカニズムによるものではなく、したがって「需要と供給の法則」によらず、自社に都合の良い設定にしているわけです。すると、レモンの原理によって価格が下がっていくのかというと、そんなことにはなりません。なぜならば、ディーラーと購入者の関係でいうと、長期にわたる関係ができあがっているので、言い値を支払うことが多いであろうこと、損保会社については、被害側が加害側の損保会社を選ぶことはできないからです。