スーパーの閉店前値引きとビッグモーター事件…人間の欲望が「需要と供給の法則」では測りきれないワケPhoto:PIXTA

近年、ダイナミック・プライシングを導入したホテルが急増し、宿泊料の変動が大きくなって驚きます。この仕組みの本質は、スーパーマーケットで閉店時間が近づくに連れ、総菜や弁当に割引シールを貼り替えていく作業と同じです。今回は、「需要と供給の法則」について分かりやすく、かつ本格的に学んでいきましょう。(コラムニスト 坪井賢一)

「スーパーの割引シール」「ホテル価格の変動」
需要と供給の調整は、人間の欲求や欲望を描く

 スーパーマーケットに夕方から夜に行くと、総菜や弁当のパッケージに「30%引き」「50%引き」といったシールを店員が張り付けていることがあります。これは経済学でいうところの「需要と供給の法則」です。閉店に近いので来店数は減り、需要は減ります。店側は均衡価格の推移(詳細は後述)を予測し、どんどん安くしてシールを張り替え、需要をつかまえようとするのです。

 夏の暑い日にはアイスクリームが欲しくなります。すると、アイスクリーム市場では需要が増えますので、価格は上昇することになります(経済学的には)。この需給の動きを予測して、アイスクリームのメーカーや流通企業は生産量や販売量を増やします。

 これが価格による「市場の調整」で、市場メカニズムの本質です。つまり、需要と供給の調整は、人間の欲求や欲望を描いているといえるでしょう。市場メカニズムは非常に効率的に動いていますので、アダム・スミスが言うところの「神の見えざる手」に導かれて最適な状態へ動いていきます。

 総菜・弁当やアイスクリーム市場の需要予測は分かりやすいですが、需要予測が複雑で難しいホテルの料金、コンサートの料金、Bリーグの入場料などにもこうした料金の変動を取り入れるようになりました。この仕組みを「ダイナミック・プライシング」といいます。日本語で「動的価格設定」です。

 近年、ダイナミック・プライシングを導入したホテルが急増し、宿泊料の変動が大きくなって驚きますが、ビッグデータの収集とAIによる短期的な需要予測が可能になったため、取り入れる業界や企業が増えています。ダイナミック・プライシングのシステムは高度で、コンサルティング・ファームの主戦場ですが、この仕組みの本質はスーパーの価格シール貼り替え作業と同じです。「神の見えざる手」の動きを予測し、ダイナミックに価格を変動させて需要を捕まえるということです。

 次のページでは、需要と供給の法則をもう少し本格的に学んでみましょう。需要曲線と供給曲線がバッテンのように交差する図は思い出せますか? 高校の社会科教科書で、ただ一つ掲載されている経済学の法則です。「神の見えざる手」を“見える化”した図でもあります。