かっぱ寿司の元社長が転職前に
はま寿司の仕入れ情報を不正に持ち出した

 回転ずし店〈かっぱ寿司〉の元社長が22年、転職前に在職していた〈はま寿司〉の仕入れ情報を不正に持ち出した疑いがある、として刑事告訴された。容疑は他社の営業秘密を入手して、自社が有利になるように使ったという不正競争防止法違反だ。翌23年、東京地裁は、元社長に懲役三年、罰金200万円の判決を言い渡した。

 新聞報道によると、かっぱ寿司の元社長は、はま寿司の親会社の幹部だったとき、はま寿司の商品原価や食材の使用量などに関する営業秘密のデータを不正に取得。その直後、かっぱ寿司に転職し、さらに、かっぱ寿司の商品企画部長にデータをメールで送った。データの閲覧に必要なパスワードは、元部下から聞き出していたという。

 会社の幹部が営業データをごっそり持ち出して、ライバル会社に転職してそれを悪用するのなら、法に触れるのだ。

 この不正競争防止法というのは、営業秘密を保護するために作られた法律で、成立するための要件は三つ。一つは秘密管理性で、情報が秘密として管理されていること、二つ目は、非公知性で、公然と知られていない情報であること、三つ目は有効性で、生産方法や販売方法、そのほかの事業活動に有益な技術上、または営業上の情報であること。

 最もハードルが高いのは、一つ目の秘密管理性で、文書なら「マル秘」などとはっきり明記されて、鍵がかけられたキャビネットで厳重に管理されていたり、コンピュータ内の情報ならパスワードをかけているような場合である。

 はま寿司の場合、パスワードをかけて管理していた情報が盗まれた点が問題だった。

 さらに、回転ずしチェーン店にとって、原材料となる魚をいくらで、どこの業者から仕入れているのかというのは、営業秘密にあたる。たとえば、仕入れている業者と、仕入れ価格を知ることができれば、「うちには、もうちょっと安く卸してよ」と商談を仕掛けることもできる。これは2番目の非公知性や、2番目の有効性にも引っかかる可能性がある。

『潜入取材、全手法』書影横田増生著『潜入取材、全手法』(角川新書)

 振り返って、ユニクロの時給1000円で働くアルバイトが知り得ることが営業秘密になるのか。その可能性は極めて低い。

 最大の理由は、アルバイトが日々の作業で知り得る情報を鍵をかけた場所に保管したり、パスワードがないと閲覧できないような秘密として管理していては、日々の仕事が回らないからだ。

 このため企業や組織の底辺部分から潜り込む通常の潜入取材が、営業秘密の暴露になる可能性は極めて低い。ただ、くれぐれも鍵のかかった戸棚や、パスワードを盗んでパソコンから情報を盗ってくることがないよう注意してほしい。