東京都と大阪府で2024年度から導入された、高校授業料の無償化における所得制限撤廃は深刻化する教育格差の是正につながるのか?特集『東京&大阪で高校授業料無償化 常識崩壊!高校入試最前線』(全8回)の#7では、「中学受験が今まで以上に過熱しかねない」と言う、慶應義塾大学経済学部教授で同学部附属経済研究所こどもの機会均等研究センター長の赤林英夫氏にインタビューした。(ダイヤモンド編集部 宮原啓彰)
高校授業料無償化で浮いたお金は
中学受験のための学習塾に流れる
――2024年度から、東京都と大阪府で高校授業料の無償化における所得制限が撤廃されました。広がるばかりの教育格差の是正につながるのでしょうか?
一般論として、学費の無償化それ自体は、教育の機会均等に寄与すると考えます。家庭の経済状況のために私立高校、私立大学という選択肢が選べなかった子供が、希望する教育を受けられるようになることは基本的には良いことでしょう。
ただしそれは、第一に、無償化によって教育の全体の質が損なわれないこと、第二に、無償化の恩恵が全ての子どもに行き渡ることが大前提です。問題は、東京都と大阪府で24年度から始まった高校授業料の無償化における所得制限の撤廃によって、それらが実現できるのか、という点です。
実際、教育の質の低下を懸念して、学費の無償化政策に参加しない私立高校が存在します。無償化を受け入れた学校でも、収入減が質の低下や教員の負担増加につながらないようにする努力が必要です。
第二の点が懸念されるのは、今回の政策は、世帯年収が高い家庭の学費が世帯年収の低い家庭と同じく無料になること、高校入試を行わない私立の「完全」中高一貫校にも制度が適用されることにあります。その場合、一部の層にとっては逆に格差を助長しかねないとさえ思います。
特に東京都をはじめとする首都圏では、大学合格実績の高い難関校に私立の完全中高一貫校が多く存在します。高校からの入学枠がなければ、そうした難関校に入るためには、中学受験が必要です。中高6年間のうちの高校からの学費は無償化になっても、中学校3年間の学費を払う必要があります。それが払えない家庭の子どもは、それら難関校に通う道は閉ざされ、結果的に今回の無償化の恩恵は受けられないということになります。
子どもを中学受験に挑戦させられる家庭は、各種統計資料から相対的に富裕層であるのは間違いありません。今回の所得制限の撤廃は、そのような中学受験ができる富裕層への補助金としても働きます。現在の中学受験で通塾がほぼ不可欠であることを考えると、無償化で浮いたお金は、学習塾などに回り、難関完全中高一貫校への受験が過熱する可能性が高いでしょう。ただし、誤解がないように付け加えると、私は中学受験や学習塾を否定しているわけではありません。その機会が均等に与えられていないことが問題なのです。