特急列車との逆転現象で
すみわけが問題になる可能性も

 もうひとつ、成否を分ける要素がグリーン車文化の定着だ。首都圏では東海道線と横須賀線が戦前から普通列車に「2等車」を連結していたが、等級制では車両ごとに運賃が異なるシステムで、2等車の運賃は3等車の2.4倍だった。

 1969年に等級制は廃止され、旧2等車はグリーン車となったが、等級制の名残で普通定期券では利用できなかった。それでも乗りたければ、定期を持っていても別にきっぷを買う必要があったが、1980年代に入るとバブル経済を背景に需要が急増し、東海道線のグリーン車利用者は民営化後1年で30%増加した。

 東海道・横須賀線以外では、総武快速線が1980年に横須賀線との直通運転開始に伴いグリーン車を導入した。2004年に宇都宮・高崎線と東海道・横須賀線を直通する湘南新宿ラインが大増発されると、サービスを統一するために宇都宮・高崎線にもグリーン車を導入。あわせて定期券でも利用できるようにするなど、グリーン車の「大衆化」を進めた。

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 グリーン車文化のない埼玉方面で受け入れられるのか注目されたが、すぐに定着し、宇都宮・高崎線で年40億円程度の増収をもたらした。1990年代から朝ラッシュ、夕夜間に有料のライナー、日中は30分間隔で特急列車が運行される中央線では着席サービスは身近な存在であり、混雑の激しい通勤時間帯の需要は手堅いだろう。

 むしろ今後は特急列車とのすみわけが問題になるかもしれない。中央線特急「あずさ」「かいじ」「富士回遊」「はちおうじ」「おうめ」は、50キロまで事前購入で750円、チケットレスサービスで650円。これに対して普通列車グリーン車は50キロまで事前購入で1010円、Suicaグリーン券の場合は750円という逆転現象が起こっている。

 普通列車グリーン車と在来線特急列車普通車の座席はほぼ同等だが、前者は自由席、後者は指定席だ。また、特急は立川、八王子など主要駅のみの停車だが、普通列車は多くの駅に止まる分、所要時間は長いものの乗車機会は多い。中央線ユーザーが2つの着席サービスをどう使い分けるのか、興味深いところだ。