実際、復旧の遅れは目を覆わんばかりで、震災での全壊家屋8142棟に対し、4月時点で完成した仮設住宅は3368戸。全壊家屋を公費で解体するには手続き申請が必要ですが、申請済みは8500棟のみ。実際には、持ち主不明を含めると公費解体が必要な家は2万棟はあるそうです。こうした解体手続き、あるいは解体そのものの遅れが、そのまま水害の死者に結びついたのです。

 輪島市の中央に、テレビに何回も映された、完全に斜めになって倒れ、隣の居酒屋を押しつぶしたビルがあります。9月になってようやく解体計画ができたばかりで、県は輪切りにして解体する工法を決めて国に申請する段階と言っているものの、国は「まだ詳しいことはわからない」とマスコミに答える始末。居酒屋の店主は諦めて、今は関東で商売しているようですが、これでは1年たっても片づかないでしょう。

 また、震災では水道管が折れて水が通らなくなり、水道管が直っても持ち主不明の家の下を通す許可がとれず、隣家までの工事が遅れていました。しかし、今回の水害で水道管そのものがなくなったので、一から水道管を通す必要があり、気が遠くなるような時間が必要になると思われます。「大規模なボランティアの投入が必要」と知事はぶち上げましたが、受け入れのための組織が整っていないので、慌ててNPO団体などとの連携を始めました。

馳知事では無理かもしれない…
石破新首相の「防災省」が頼みの綱

 結局、馳知事ができることは、岸田首相にお願いすることだけでした。特別予算とホテル宿泊代の値上げを約束させて、ドヤ顔で撮影に応じていましたが、一方で県のイベントには必ず顔を出し、チャリティのためとはいえプロレス会場まで足を運びます。しかし能登の場合は、土地の利用計画や道路の復旧まで、今まで通りに戻すだけではもはやどうにもなりません。馳知事には、もう何も発言・提言は許さないほうがいいと思われます。

 石破茂・自民党新総裁が総理に就任したら、彼の提唱する防災省の実験台として、能登半島で被害を受けた市町村だけの復興協議会と国の直接交渉の場をつくり、馳知事はお飾りだけにして、「さすが防災省」と言われるような、新しい町づくりをやってほしいものです。

(元週刊文春・月刊文藝春秋編集長 木俣正剛)