資源循環のカギを握る
2つの産業

 リサイクル適性を向上させるため、単一素材で構成した梱包材(モノマテリアルパッケージ)も登場しています。これについてはいかがでしょう。

 たとえばパッケージメーカー大手のTOPPANは、缶の形状をした紙製の飲料容器「カートンカン」を開発しました。紙製でありながらバリア性に優れていることから、サステナブルな飲料容器として少しずつ普及し始めています。そしてこの紙製容器は、従来の古紙回収のルートに乗せられるとのことです。これは大事な点です。単に素材を変えただけでなく、その回収まで見ている。

 また同社は、PP(ポリプロピレン)やPE(ポリエチレン)など単一のプラスチック素材によるモノマテリアルパッケージを開発し、取引先メーカーへの普及を進めています。

 ただ、いくら容器や梱包のモノマテリアル化を進めたとしても、肝心なのはそれをどう分別・回収・処理するか。いわゆるリサイクルに当たる部分ですが、日本の「3R」(リユース、リデュース、リサイクル)はゴミ対策を基点にしていることが、現在はかえって問題になっています。これについては、インタビュー前編で詳しく指摘した通りです。「極小生産・適小消費・無廃棄」を基本とする資源循環経済へと転換するには、従来のリサイクル発想からの脱却が不可欠なのです。

 そして、そのカギを握るのが2つの産業です。1つ目がリソーシング(注4)を担う「リソーシング産業」、2つ目がメンテナンスやリペアによりユースの延伸やリユースの繰り返しといった使い続けを担う「中脈産業」です。

注4)廃棄物を再生材にするリサイクルだけでなく、多様な廃棄物の広域回収や自動選別技術を用いた高品質な再生材の安定供給を行うこと。

 まず、リソーシング産業についてお話ししましょう。今後、資源調達がますます難しくなることが予想されるので、いま手元にある資源をいかに有効活用するか、つまり「資源生産性」を高めることが求められます。そのためには、手持ちの既存品を長く使い続けることを基本に、新たにつくるならば、一台数役(汎用品をつくったうえでソフトで専用化)や再生資源活用製品(脱バージン材・脱新型・脱新品のモノづくり)などが重要になります。つまり、健康寿命・アンチエイジング技術や輪廻転生技術をあらかじめ埋め込んでおくということです。

 そしてもう一つは、手持ちの使用済み製品をゴミではなく再生資源として調達・活用すること(リソーシング)が、資源循環の原則となります。

 ソーティングプラントの領域では、欧州が先行していると聞きます。

 ソーティング(分別)は、リソーシングの前段階にある重要な工程です。日本では、家電や紙などソーティング対象の資源を限定してきた歴史があり、それはそれで効果があったのですが、現在は逆に部分解決・部分最適であったという指摘が絶えません。限定的な製品以外は、焼却と埋め立てに頼ることになってしまったからです。

 他方、欧州では、ソーティング対象の資源が幅広いがゆえに、ゴミの分別は日本ほど細かくなく、ざっくり分けて捨てるが基本です。それを資源別に細かく分別するのが、ソーティングプラントビジネスの役割です。その技術はいまや極めて先進的で、分別された資源は有価物として高値で売れることに気づいたソーティング企業は、みずからの企業努力でソーティング技術を進展させています。風で吹き飛ばす、鉄とアルミは磁石で分けるなどの機械化は当たり前で、センサーやAIなどを駆使した超ハイテクのソーティングプラントも登場しています。日本のリサイクル工場は基本的には焼却炉を中心としたもので、欧州と比べると遅れている感は否めません。

 政策面での誘導も背後にあるのが欧州です。他方、日本はお得意の「部分最適・部分問題解決思考の癖」が限界を迎え、「産業規制はするけど、産業育成は下手」が露呈し始めていると思いませんか。

 従来のリサイクル産業からリソーシング産業に転換してほしいものですが、新たに参入があってもよろしい。これまでのリサイクル業はローテクなリソーシングが中心でした。環境省による厳しい規制で身動きが取れなくなっている部分もあります。しかしながら、ハイテクなリソーシングを行う企業も生まれつつある。規制を緩和して、柔軟な対応ができるようにすべきだと考えます。このリソーシング産業の中核ビジネスを担うのが、ソーティングプラントなのです。

 日本と欧州の特長を組み合わせるべきだとおっしゃっていますね。

 家庭で一生懸命にゴミを分別するのは、たしかに日本人の素晴らしい気質です。でもそれだけに頼るには限界がある。なぜなら家庭で分別したとしても、結局はその大部分が焼却されてしまっているからです。これは、先ほど挙げた廃プラ問題のところでもお話しした通りです。

 それなのに、大手新聞の論説委員でさえ「日本のペットボトルのリサイクル率が9割近いことはよいことだ」などと記事に書いてしまっています。この認識の低さにはうんざりします。完全に回収と再生を混同している。回収率と再生率は、関連するけれど、区別すべき話です。そもそも廃棄物を焼却して熱エネルギーにすることをサーマルリサイクルと呼ぶのは日本独特で、少なくともリサイクルに関する世界標準ではありません。ようやく最近、焼却をリサイクルとは表記しないことが増えてきてほっとしています。日本はリサイクル発想から脱却し、リソーシング発想へと転換しなければならないと私が常々申しているのは、こうした世界とのギャップもあるからです。

 リサイクルは、言い換えれば「モノもどし」です。モノもどしは、最初に「はずし・ばらし」という分解と、「つぶし・くずし」という破砕・粉砕と、「はがし・ほぐし」という分離があります。その後に来るのが「モノ選び」「モノ分け」「モノ集め」「モノ貯め」で、これがソーティングに当たります。

 そして最後には「モノ運び」が必要になります。つまりは、私が「資源循環圏」と呼ぶリソーシングエリアの構築です。ここでは自治体をまたいで資源を動かす必要がありますが、資源の種類やサイズなどを勘案して、いかに効果的・効率的にソーティングプラントへ再生用資源(従来は廃棄物と呼ばれていたもの)を届けるかが問われます。しかしながら現在の産廃法では、自治体を越える輸送には制約がある。そのため、大胆なリソーシングビジネスを立ち上げにくい。

 ゆえに、実態に即していない規制法の緩和が不可欠です。いまある産廃法やリサイクル関連法は廃棄物対策やゴミ処分を前提にしているため、限界があります。それに関わる産業人も法的な制約だから仕方がないと諦め、ビジネスチャンスととらえることができていない。環境省もサステナブルビジネスとは言い始めてはいるものの、ビジネスの知識やセンスが基本的に不足していて、稼げる仕組みづくりをイメージできない。ですが、本質的なビジネス発想で取り組めばまったく違うアプローチになるはずです。

 ていねいにゴミ分別する日本人の気質と、資源循環をビジネスチャンスととらえる欧州のような先進的なリソーシング産業が結び付き、それを支える法整備が進めば、日本は「稼げる資源循環立国」になれるはずです。国富・国民富に寄与すると同時に、その技術や社会システムによって世界に貢献する国として、日本の存在感を再浮上させることができるのではないでしょうか。GDP上位国から転落した「落ちぶれた国」ではなく、成熟経済の中でしっかりと世界貢献をする「いぶし銀の名脇役の国」になりたいものです。