中脈産業を
いかに育成するか

 資源循環は、メーカーだけでなく、リソーシング企業、官庁や自治体を含めた社会連携が不可欠であると。だとすれば、それは資源循環のカギを握るもう一つの産業「中脈産業」に大きく関わりそうですね。

 そう、資源循環に関する地域連携とも関わるのが中脈産業です。これはメンテナンスやリペアといったユースの延伸やリユースの繰り返しによる使い続けを担う産業、すなわち動脈と静脈の中間で頑張る産業群のことです。

 資源循環という文脈では、「動脈と静脈をつなげる」という話がよく出てきます。そのうえで私が問いかけたいのは「はたしてリユースは静脈なのか」「リユースの前に、ユースの延伸も必要ではないか」ということです。

 先ほど触れた古着の話を例に取れば、古着のリユースビジネス以前に、いま着ているものをいかに大事に長く着続けるかが大切です。たとえば私が今日着ているブランドもののオーダーシャツは、襟と袖を仕立て直ししながら着続けているものです。こうした「お直し」「お治し」は、我々の世代までは当たり前のことでした。ですが、いまも探せば、ご近所にはお直しやお治しが上手な方がかなりいらっしゃるはずです。そうした方々を対象にした、メンテナンスやリペアの認定認証制度のような仕組みができてもよいのではないでしょうか。衣食住をはじめとする生活用品に関するメンテナンスやリペアは、地域に密着し、自足できるほうがよい。こうした草の根の取り組みこそが、モノを長く使い続けること、つまりはユースの延伸につながっていきます。

 使い続けという文脈においてもう一つ注目されるのは、「リユースの繰り返し」です。具体的には、地域で開かれている蚤の市やフリーマーケットに加え、ヤフーオークションをはじめとするオークションサイトや、いまやあらゆる世代が利用するようになったメルカリなどのフリマアプリも、使い続けの一種です。しかしながら、これらをリサイクル、つまりは静脈だと分類するのは、少し雑すぎるのではないでしょうか。だからこそ私は、ここを「中脈」と呼びたい。この中脈産業が育成されれば、しっかりと静脈産業への橋渡しがなされ、動脈産業へと再生資源を手渡すことができる。これについては、私のアイデアを一つご紹介させてください。

 私がいま大きな可能性を感じているのが、大手メーカー系列販売店、チェーンストアの活用です。わかりやすい例を挙げれば、地域に根差した街の電気屋さんです。現在ではかなり減ってしまいましたが、ここが製品の使い続けに不可欠なメンテナンスとリペアの拠点になるのはもちろんのこと、使用済み製品の回収拠点にもなると考えています。

 昔ならば近所の電気屋さんは、単に新製品を販売しているだけでなく、掃除機や扇風機などのちょっとした故障は修理してくれていましたよね。それをいま、使い続けの文脈で復活させるのです。古着の例でも触れたように、メンテナンスとリペアの認定認証制度をつくり、街の電気屋さんがそれを取得して家電製品を修理する。そうすれば保守・修理修繕の技術と技能の伝承にもなりますし、世界で台頭するユーザーの「修理する権利」に応えるための立派な拠点になりうるでしょう。もちろん、地域における資源回収の拠点にもできる。大企業にとっても販売店にとってもメリットは大きく、ウイン・ウインの関係を再構築できるはずです。

 ちなみにこのアイデアは、メーカー系列販売店に限った話ではありません。すべての企業がサービスへと軸足を移す中で、店舗はこれまで以上に重要な拠点となることでしょう。メーカーと流通との関係を見直して資源循環の地域拠点とすることは、大手流通業はもちろんのこと、リース/レンタルビジネスなども加わった大同団結によって大いに検討すべきことです。よって私は、その基盤づくりとして、まずは協議会を立ち上げたいと考えています。読者の皆さんもぜひ、資源循環経済に向けて「店舗の価値」を見直してみてはいかがでしょうか。

 ちなみに先生は「資源循環経済においては、循環のすべてが〝生産〟工程になる」とおっしゃっていますが、もう少しわかりやすく教えてください。

 生産工程には2つの「じ工程」があります。次工程と自工程。これはかつて私が富士写真フイルムに勤めていた時に工場で学んだことです。みずからの工程は、次の工程を保証するという「自工程保証・次工程保証」という品質管理の考え方です。

 生産工程とは、自工程から次工程へと生産のバトンリレーをしているわけですが、見方を変えれば、次工程は前工程から生産素材を資源として調達しているともいえます。そこで、これを一つの工場内の話としてだけではなく、社会全体における資源循環プロセスに当てはめてみてはいかがでしょうか。使用済みの製品は廃棄物になるのではなく、次工程用に調達し、自工程で次工程向けの資源として生産するものだと考える。そのバトンリレーを続けてトラックを走り続けることで、原則無廃棄の資源循環の世界をつくっていくのです。

 資源を海外に依存する日本にとって、使用済み資源を再利活用して「稼げる資源循環立国」になることが日本の進むべき道であると提言されていますが、ならばどのような仕組みが必要でしょうか。

 まずご理解いただきたいのは、「大国」と「立国」の違いです。資源をたくさん持っているのが大国、それで稼げるようにするのが立国です。つまり「大国必ずしも立国ならず」。たとえば、特許件数の数を誇る企業がそれを活用して稼げないのであれば、「立社」できていないということです。

 次に申し上げたいのが、資源循環経済に向けて、次の3点に対して我々は覚悟を決めなければならないということです。

①資源大国に牛耳られないようにすること。
②環境汚染に加担しないようにすること。
③資源を循環的に確保すること。

そのためにこれから期待できる産業が、先述したリソーシング産業と中脈産業なのです。