「心理的安全性」の本当の意味

《みんな、仕事場では安全だと感じて、ありのままの自分でいられることを望んでいます。私たちは、自分が正直で本物の自分を同僚たちに見せても大丈夫だと思いたいのです。つまり、一緒に多くの時間を過ごす人たちが私たちをサポートしてくれると信じたいし、挑戦して失敗しても受け入れられ、尊敬されると感じたいのです》

《もし、そういった安全感を失うと、仕事仲間から距離を置き始めます。そして、彼らが私たちを守ってくれないかもしれない、あるいは脅かすかもしれないという恐怖から、自分を守ろうとします。安全だと感じられないと、新しいことに挑戦したり、組織が必要とする改善を考えたりすることもやめてしまいます。簡単に言うと、感情的な痛みを避けるために周りの人を助けることをやめ、仕事での人間関係からも遠ざかってしまうのです》

《(経営学者の)エドモンドソンは「心理的安全性」という考え方を提唱しました。心理的安全性とは、従業員が職場で受け入れられ、自分を開示しやすく感じる程度のことです。彼女は最初、この心理的安全性がチームの成功に欠かせない要素であると考えました。チームがうまく協力して働くためには、メンバーがお互いに信頼し、オープンで、安心して本当の自分を出せることが必要だからです》

《この初期のモデル(エドモンドソン)から、研究者たちは心理的安全性の範囲を広げて、個人から組織全体に至るまで様々な状況に適用しました。さらに、心理的安全性がパフォーマンス、離職率、従業員の意見表明、欠勤率、忠誠心など、多くの組織成果に重要な役割を果たすことが示されています》

(Milton Mayfield著『健全で安全:心理的安全性におけるリーダーの動機づけ言語とフォロワーの自己リーダーシップ』2021年)

 いかに、心理的安全が大事かということであろう。そこに稲盛氏は最大限の注意を払った。利益を最大化するための組織(アメーバ経営)であると同時に、同じ志を持つ運命共同体(フィロソフィー)の両輪を走らせた。

 であるからこそ、この製造部長の「逃げの姿勢」に稲盛氏は大きく腹を立てたのであろう。こんなに安全に、安心して仕事に打ち込める環境にしているのに、お前はなぜ逃げの姿勢なのだと稲盛氏は会議で怒ったということである。