「歳をとった親が言うことを聞いてくれない」。誰もが一度はこんな経験をしているのではないでしょうか。「親がいつまでも自分のことを若いと思っている」「病院ギライがなおらない」「お酒の量が減らない」などその悩みはさまざまです。親のことを思って言ったのにもかかわらず、いつも喧嘩になってしまうのは、実は伝え方に問題があります。そんな問題を解決すべく、『歳をとった親とうまく話せる言いかえノート』が発刊されました。本記事では著者の萩原礼紀氏へのインタビュー記事をお届けします。
「高齢の親と口論になってしまう人」が見落としている1つの視点
――ちょっとしたことで高齢の親と口論になってしまうというケースは少なくないように感じます。その理由はどういったところにあるのでしょうか。
萩原礼紀(以下、萩原):理由を1つに絞ることはむずかしいですが、確実に言えることは「言葉の省略」にあると言えます。
普段、私たちは仕事をしているとき、同僚であれ顧客であれ、きちんと丁寧に説明することを当たり前のようにしています。ですが、それが血のつながった親となると、お互いが「まぁ全部言わなくてもわかってくれるだろう」と横着をしてしまい、本来話さなければいけないことを省略してしまうのです。
――具体例を教えていただくことはできますか?
萩原:たとえば、職場で皆さんに仕事の依頼があったとしましょう。ですが、皆さんはすでに膨大な仕事を抱えていて、新規の仕事を受ける余裕がありません。
そんなとき、普通であれば「受けしたいのは山々なんだが、今抱えている案件が多いため、引き受けるのがむずかしい。だが、次回ももし機会があれば言ってほしい」といった趣旨のことを伝えると思います。
ですが、これが高齢の親から「いつ帰ってくるの?」という帰省に関する質問だったらどうでしょうか。「ちょっと今忙しいから落ち着いたら帰る」と短い言葉だけで、多くの人が終わらせてしまいます。
実際に忙しいのでしょうが、言われた親の立場からすると、どうもあしらわれている感覚が拭えないですから、「本当に帰ってくるの?」「具体的にいつなの?」と、皆さんに追い討ちをかけたくなってしまうのです。
これは、まさに「親だから、全部言わなくてもいいだろう」という、誤った見立てから起きてしまうトラブルです。
――よくわかりました。対策としてはどのようなことがあるのでしょうか。
萩原:仕事とまったく同じとまでは言いませんが、多少は経緯や背景を家族に説明するのが王道であり、一番誤解なくコミュニケーションが取れる方法です。
たとえば、「今までで一番多くの量の仕事を任されていて大変だから、落ち着くまで待ってもらっていい? 帰ったときに全部話すから、話を聞いてほしいな」と言えば、皆さんの大変さは十分に伝わるでしょうし、帰りたくないわけではないことも十分理解してもらえるでしょう。
親としては、皆さんに会いたい、皆さんの役に立てることがあれば手伝いたいとう善意があるだけで、皆さんの足を引っ張りたいわけではありません。
ですから、丁寧に理由を伝えればケンカにならずに、いいコミュニケーションが取れると思います。
――ありがとうございます。大変勉強になりました。