認知症患者が年々増加しているなか、老後の発症を恐れている人は少なくないだろう。認知症というと絶望的でネガティブなイメージしか沸かないが「認知症にもいい面はある」と生物学者の池田清彦氏は語る。その意外な理由とは?※本稿は、池田清彦(著)、南 伸坊(著)『老後は上機嫌』(ちくま新書、筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。
生物が環境にあわせる
「適応論」が怪しい理由
南伸坊(以下、南) 僕は、池田さんに会ったら、聞きたいと思っていたことがあって。
池田清彦(以下、池田) なに?
南 擬態の話。どうやったらあんなにソックリになるのかって……。
池田 あっちこっちで、だいぶ話しているんだけど、擬態は半分はインチキだと思っている。普通は「こういう形だから、この生物はうまく生きてるんですよ」って言うじゃん。でも俺の考えでは「変な形であっても、死なないで生きてる」と言うべきだと思うよ。
生物には、大きさに応じて斑紋パターンを決定する変換関数みたいなのがあって、例えば、あるグループだと、このぐらいの大きさになるとこういう斑紋になるとか、決まってくるんだよね。
それが、たまたま生息している場所の植物の色とかに似てると、擬態とか言うんだけど、生存に有利な形質のものが子孫を残すという自然選択の結果、徐々に似てくるわけじゃないと思う。もちろん、似た後で機能する場合もある。似てるから、他の生物に食われにくいとか。だけど、機能しない見てくれだけの擬態もあると思うよ。
南 熱帯のジャングルにいるコノハムシとか、ものすごく上手じゃないですか。虫なのに、葉っぱにしか見えない。むちゃくちゃ手がこんでる。