さすがに、ハイデガーの『存在と時間』となると、少し読みにくいところがあります。哲学書を読むなら、プラトンやデカルト、あるいはニーチェの本から入ると読みやすいと思います。

夜こそ大著を少しずつ読み進める

 時間を気にせず、大著に浸ることができるのが夜のよさです。ロマン・ロランの『ジャン・クリストフ』は、全4冊(岩波文庫)からなる長編教養小説です。ある天才音楽家がドイツの小都市に生まれて成長し、恋をして、音楽家として大成して死ぬまでのすべてを描いた、大河ドラマのような作品です。

 このような、一人の人生のすべてを凝縮した作品を、1日30ページくらいずつ、じっくりと読む。それを毎日続けていくと、夜の雰囲気と物語の雰囲気がマッチして、毎晩、小説の中の世界に旅しているような錯覚に浸ることができます。これが私の大学受験時代のいやしの時間でした。

 ドストエフスキーの『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』も、夜に読むことで輝きを増す物語です。長編小説は、昼間に持ち歩いて、電車の中やカフェなどで細切れの時間を使って読むよりも、夜、じっくりと落ち着いて読むことで、その世界観が自分の中に染み込んでくる感覚を味わえます。

 最近話題になった小説では、ガブリエル・ガルシア=マルケスの『百年の孤独』もお勧めです。『百年の孤独』は、20世紀の最高峰とされる小説の一つで、南米を舞台に、ある一族が村をつくり滅びるまでの100年間を描いた大作です。

 ですから、当然すぐには読み終わりません。毎晩2時間ずつ読んでも何日もかかるでしょう。もちろん、2時間読まなくてもかまいません。『百年の孤独』は10ページだけ読んで、ほかの本も読んだり映画を見たりしてもいいのです。

 しかしその毎日の読書で、必ず発見があります。そして、『百年の孤独』の不思議な世界を味わってから眠りにつくことができます(ちなみに、2024年発売の文庫版には「毎晩この本を10ページ読んで、南米の魔法に酔いしれよ!」という推薦文を寄稿しました)。