武田薬品工業の「壮大なる社会実験」外国人経営は第1幕が終了へ、12年に及ぶウェバー体制の功罪とは?武田薬品工業の現トップ、クリストフ・ウェバー氏(Photo:JIJI)と次期トップのジュリー・キム氏(武田薬品工業ホームページより)

武田薬品工業は、クリストフ・ウェバー社長CEO(最高経営責任者)が2026年に引き、外国人女性幹部が次のトップに就任すると発表した。国内製薬首位のレガシー企業は2代続けて外国人がかじを取る。連載『武田薬品「破壊と創造」最終章』の本稿では、約12年に及ぶことになるウェバー体制の功罪を探る。(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)

武田薬品トップの座は再び外国人
日本と日本人の存在感は低下

 江戸時代創業のレガシー企業であり、国内製薬最大手の武田薬品工業は、2代続けて外国人がトップを担うことになる。

 メガファーマ(巨大製薬会社)の一つ、英グラクソ・スミスクライン(GSK)幹部だったクリストフ・ウェバー氏(58歳)は2014年4月に武田薬品へCOO(最高執行責任者)として招聘(しょうへい)され、同年6月から社長COOに、15年4月に社長CEO(最高経営責任者)に就任した。トップに外国人を据えるのは同社初で、国内製薬業界はもとより大手レガシー企業では極めて珍しい出来事だった。

 ウェバー氏はこれまでに世界的な研究開発体制の見直し、大型買収、事業売却、リストラなどを断行した。買収効果により、売上高はこの10年で2倍余りに成長。ウェバー氏に対してはグローバルで戦える製薬会社へ変革した手腕をたたえる声がある一方、「壊し屋」「高額報酬には見合わない業績」などと批判する声もある。

 26年6月にウェバー氏の後を継ぐ予定のジュリー・キム氏(54歳)は、武田薬品が19年にアイルランドの製薬会社シャイアーを約6兆円で買収した際に同社から移った。約1年半も先のトップ交代を発表することは異例で、会社側はトップ交代の移行期間やキム氏の現在のポジションの後継者選びなどを理由としている。

 武田薬品でキム氏は19年、プラズマ デライブド セラピーズ(血漿(けっしょう)分画製剤)ビジネスユニットのプレジデントに就任。22年から現在までは、U.S.ビジネスユニットのプレジデントおよびU.S.カントリーヘッドを務める。武田薬品を含めた世界の多くの製薬会社が拠点を構える米国・ボストン周辺では、「キム氏は社会貢献活動に熱心で、製薬業界でかなり知られた人物」(武田薬品OB)だという。

 OBや現役社員は、「タケダは事実上、米国の会社。つまり、米国マーケットを任されるような人物こそ次期トップにふさわしいということなのだろう」と、今回の人事について感想を述べた。

 というのも、米国は近年、武田薬品の売上高の約半分を占める最重要エリアだからだ。対して本社を置く日本は約10年前まで売上高の40%前後を占めていたが、近年は10%前後まで下がっている。なお売上高構成比の変化に伴い、ウェバー氏は20年から米国の現地法人のグローバル事業責任者を兼務している。

 次ページでは、次期社長レースで最有力と目されていた日本人幹部の実名、そして製薬業界の他の長期政権(エーザイ、塩野義製薬、小野薬品工業)と比較してウェバー氏に足りなかったものを詳報する。