泣かせたり怒らせたりするのは簡単
でも「人を笑わせる」のは大変なこと
谷 2020年に吉本興業を退社して、今は何もやっていませんよ(笑)。週に一度、奈良県の公益社団法人で観光客誘致を少し手伝っているくらいです。あとは小説を書いたり、油絵を描いたりしています。
ちなみに、田原さんはお笑いを見たりされるのですか?
田原 この間、ウーマンラッシュアワーの村本大輔さんのライブを見てきました。この方もM-1チャンピオンですよね。やはり勢いや熱量がすごかった。たくさん笑わせていただきました。
芸能界で活躍するには、努力はもちろんですが、何より才能が必要ですよね。僕はまったく才能のない人間なので、芸人さんを見ていると、自分にコンプレックスばかり感じます。
ジャーナリストというのは、ネタや事件があって、それをもとに話している。そういう意味ではラクなんですよ。「ゼロ」からではない。でも、お笑いというのは、何もない「ゼロ」から笑いをつくる。世界をつくる。これはすごいことですよ。
人というのは、泣かせたり、怒らせたりするのは、実は簡単なんです。でも、人を笑わせるということは、本当に大変ですよ。
谷 私も吉本興業に入ったときは、芸人さんたちを見て「すごいな、この人たち」と思いましたね。しゃべりが上手いのももちろんですけど、歌までうまいってなんやねん!って。すごい才能を持つ人たちがたくさんいる。その中にいると、私もやはり劣等感を感じましたよ。
田原 今後、テレビやメディアに期待することはありますか?
谷 私たちの世代はテレビっ子で、テレビが大好きです。でも若い人たちは、YouTubeやSNS、動画配信サービスをスマホで見ていて、もうあまりテレビを見ていないようです。これからの時代、テレビはどうなっていくのだろうと。最近はコンプライアンスの観点もあり、ネタにできないことも多いですよね。
田原 民間のテレビが一番良くないのは、免許事業ということです。政府が免許を握っているので、テレビはおよび腰で政府とけんかができない。
ネタにできないようなことがあるというのは、逆におもしろいのではないでしょうか。それを上手くネタにすればいいんですよね。もちろん、人を傷つけるようなことはいけませんが。今の時代に一番重要なのは「エンターテインメント」だと思います。テレビが生き残るためには、または、進化するためには、免許事業の中でしっかりと、政府とけんかしなければいけない。それがまたおもしろいところでもあります。
今はSNS全盛ですが、僕はこれからもテレビを大事にしたいと思っています。だからこそ制約を気にせず、ガンガン、けんかをしていきたいですね。
谷 さすがですね……(笑)。テレビは誰でも見ることができる全方位でやっているから、「言ってはいけないこと」がたくさん生まれていく。ですから、YouTubeなどの動画配信サービスで、見たい人だけが見られる有料番組になっていくと、また可能性が広がっていくのだと思います。
それに、テレビでできないことを、それこそ生のライブではできますよね。ガンガン言いたいことを言っている。そういう意味でも、漫才はいいんですよね。スレスレのところを攻めてネタにしても、相方が「あほか!」と突っ込んでくれる。微妙な空気が流れる前に笑いへ変えてしまう。今の時代にも適応できるフォーマットです。ピン芸人の場合は、言ったことは自分で何とかしないといけないですからね。
そう考えると、漫才ライブは今後もどんどん値打ちが出ると思っています。これからの時代も、漫才の可能性に期待したいです。